「過去ある婆さんが可愛いく見えて来る」TOKYOタクシー 泣き虫オヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
過去ある婆さんが可愛いく見えて来る
主演でないキムタクが話題になった作品だが、大ベテラン女優倍賞千恵子との組み合わせに非常に興味を持った。
【物語】
宇佐美浩二(木村拓哉)は個人タクシーの運転手業で妻と娘の生活を支えている。幸せな家庭生活だったが家計に余裕は無く、娘の高校進学費用の捻出に頭を悩ませていた。そんなある朝運転手仲間から受けた予約の代行を急に頼まれる。 夜勤明けの浩二は断りたかったが、「遠距離だから稼げる」の言葉で引き受ける。
昼過ぎに迎車指定の場所、柴又に向かうと85歳の老女高野すみれ(倍賞千恵子)が待っていた。行先は神奈川県葉山の高齢者施設だったが、「東京は最後になるからいくつか寄ってほしい場所がある」と頼まれる。 浩二はすみれの思い出の場所に車を走らせながら、過去を語りだす彼女の言葉に耳を傾ける。すみれの過去は想像を超えて壮絶なものだった。
【感想】
木村拓哉も悪くない。悪くないが、この作品はやはり倍賞千恵子だ。
ずみれの過去はまさに想像を超えていた。倍賞千恵子というキャスティングだし、予告編の雰囲気からしても穏やかな婆さんなのかと思っていたが、彼女の語る若い時のエピソードには「ええ、マジか」と声が出そうなほどの強烈な行動が含まれ、正直たじろいだ。
そんなすみれの人生は楽しいことよりつらいことの方が多そうだった。それでも、すみれの口からこぼれ出る言葉は決して愚痴ではない。つらいことが有った後も諦めず、希望を捨てずに人生を送った証しだろうか。 そして、最後に楽しい思い出を胸に刻めたら、「幸せな人生だった」と思えるのかも知れない。そんな哀愁を味あわせてくれる。
倍賞千恵子はかつて吉永小百合と若い男性の人気を二分したとも聞く。 確かに数年前に“寅さん”の初期作を観たときは倍賞千恵子の可憐さに驚いた。 先日吉永小百合の“てっぺんの向こうにあなたがいる”を見たばかりだが、未だ美しい吉永さゆりに比べると外見では老いが目立つ倍賞千恵子。しかし、全編観終わったとき、壮絶な過去や我がままぶりを見せるすみれでありながら、すみれからにじみ出る“可愛らしさ”や“味”は倍賞千恵子ならでは。
本作は仏映画”PARIS TAXI”のリメイクと知って、早速UNEXTで観てみた。「なるほどここはこう変えたんだ」とか「なるほどパリならここか」とか興味深かった。 甲乙つけ難いが、あえて印象の違いを言うと”PARIS TAXSI”は絵作りがとても美しく、仏映画らしい抒情的空気がある。一方”TOKYOタクシー”の方が温かく、人情味溢れている感じを受けた。そこはやはり山田洋二ならではの色が出ていると思う。見比べてそれぞれの良さを味わってみることをお勧めしたい。
個人的には、”PARIS TAXI”の運転手が娘とパリの街を走った思い出を語るのだが、数年前に結婚前の娘とパリ旅行をした懐かしい思い出が映像と共にオーバーラップして心に染みた。またもう一つ思ったこととして、”PARIS TAXI”では当然ながらエッフェル塔が何度となく映るので、普通の監督なら東京版なら東京タワーとなると思うが、スカツイリーにするところは山田洋二の下町愛かなと。
作品のターゲットの中心は高齢層になろうが、思うようには行かない日々にもやもやしたり、焦ったり、鬱々としている中堅層にもお勧めしたい。
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