「名匠・山田洋次が紡ぐ、東京の街と人生の灯火」TOKYOタクシー Akiさんの映画レビュー(感想・評価)
名匠・山田洋次が紡ぐ、東京の街と人生の灯火
キムタクと倍賞千恵子、奇跡の再会がもたらす至高のロードムービー
日本映画界の巨匠、山田洋次監督の最新作『東京タクシー』は、単なるフランス映画のリメイクという枠を遥かに超えた、深く心に染み入る傑作として完成しました。フランスで大ヒットを記録した『パリ・タクシー』(原題:Une belle course)を原案に、舞台を現代の東京に移し替えた本作。しかし、そこにあるのは紛れもない「日本の今」と、私たちが失いかけている「心の触れ合い」です。
本作の最大の話題は、なんといっても主演の二人の顔合わせでしょう。無口で不愛想、人生に疲れ切ったタクシー運転手を演じるのは木村拓哉。そして、彼が乗せることになる、終活のために施設へ向かう老婦人を演じるのが倍賞千恵子です。この二人の共演は、宮崎駿監督の『ハウルの動く城』(2004年)での声優としての共演以来、実に21年ぶりとなります。「ハウルとソフィー」が時を超え、実写映画というフィールドで再び巡り合った事実は、映画ファンにとってそれだけで胸が熱くなる出来事です。
寅さんの山田洋次監督が描く、現代の「人情」
『男はつらいよ』シリーズで知られる山田洋次監督の手腕は、90歳を超えてなお冴え渡っています。原作の『パリ・タクシー』が持つドラマティックな展開を尊重しつつも、山田監督はそこに日本的な情緒と、現代社会が抱える孤独を巧みに織り込みました。
木村拓哉演じる運転手は、かつての寅さんのような愛嬌のある人物ではありません。借金を抱え、家族ともうまくいかず、ただ淡々と東京の街を流す男です。しかし、倍賞千恵子演じる老婦人との対話を通じて、彼の堅い表情が徐々にほどけていく様は、木村拓哉の新境地とも言える繊細な演技によって見事に表現されています。一方、倍賞千恵子は、波乱万丈な人生を歩んできた女性の強さと優しさを、圧倒的な存在感で体現しています。
「あの頃、私たちの国は元気だったわね」
——名女優の一人語りに涙する
映画のクライマックス近く、首都高速を走りながら老婦人がふと漏らすセリフがあります。
「あの頃、私たちの国は元気だったわね」
高度経済成長期、バブル、そして失われた30年……。昭和から平成、令和へと移り変わる東京の景色を車窓から眺めながら語られるこの言葉には、単なる懐古趣味ではない、重厚な響きがあります。倍賞千恵子の静かでありながら力強い語り口は、観る者自身の記憶をも呼び覚まし、気づけば涙が頬を伝っていることでしょう。それは、彼女自身の人生と、彼女が演じてきた数々の役柄が重なり合う、映画史に残る名シーンと言っても過言ではありません。
総評:人生という長い旅路への賛歌
『東京タクシー』は、目的地へ向かうだけのドライブが、いつしか人生そのものを振り返る旅へと変わっていく物語です。フランス版の洗練された感動とはまた違う、湿度のある温かさがこの映画にはあります。
21年ぶりの再会を果たした木村拓哉と倍賞千恵子、そして名匠・山田洋次。この三者が織りなす化学反応は、閉塞感のある現代日本において、私たちが忘れかけていた「他者への想像力」と「優しさ」を思い出させてくれます。
エンドロールが流れる頃、あなたはきっと、大切な誰かに電話をかけたくなるはずです。タクシーのメーターが上がる音とともに深まっていく二人の絆を、ぜひ劇場で見届けてください。
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