劇場公開日 2025年11月21日

「映画ファンをほっこりさせる良作」TOKYOタクシー ひぐまさんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 映画ファンをほっこりさせる良作

2025年11月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

知的

癒される

 大変恥ずかしい話だが、僕は原作となった「パリタクシー」を見ていない。ゆえにまったく事前知識も無くフレッシュな気持で見られた。

 先に書く。案外いい作品だ。今週見るべきはやはりこれだった。とすら思った。
 まず乗客=倍賞千恵子と運転手=木村拓哉という面子がいい。こうした「運転手+客」の基本二人芝居を描いた道中記には過去にも秀作が多い。記憶の彼方に残るのは「ドライビング・Missデイジー」(1989年)であり、「グリーンブック」(2018年)もまたオスカーを獲得している。車内という一種の「密室」で語られる過去。例えば牢獄や止まったエレベーター等の密室劇と違い、自由意思で外出も可能。そこが、創作者の創造の羽根を広げさせる起点となっており、外のシーンや回想を挟み一段落させてまた元の状態に戻って繰り返す物語を作り上げることができる。その間に双方の心の距離が縮まって…という作り方。ゆえに、リアタイの2人の関係性と回想シーンを演じる役者陣が屈強に演じてくれれば、このタイプの映画は概ねハズレがない。
 若かりし頃を演じた蒼井優が彼女史上最強クラスにきれいに撮れている。実生活ではとても結婚し子を儲けたとは思えないくらい若く溌溂としている。役柄上、倍賞さんは動きこそ少ないものの貫禄十分の芝居で画面を引っ張る。よりによって出発点が「あそこ」であることも吹いてしまったw。唯一懸念していたキムタクだが、時間の経過とともにミスキャストどころか逆に「この役は彼以外いなかったのではないか?」とすら思えてしまった。彼の映画は「検察側の罪人」(2018年)以来見ていなくて、大抵は守備範囲の外だったのだが、受けの演技もがっちりとできるじゃないか。むしろ「攻めたい攻めたい」という演技を押さえる箇所に見どころを感じてしまった。音声のみの出演だがさんまちゃんはご愛敬で、大竹しのぶも良かった。そして、序盤にほんのチョイ役で出てきて終盤では忘れられた存在だった笹野高史さんが最後のキーマンとなり、物語をオチに向かって大きく転がす。

 賛否分かれる点としてはキムタクのタクシー運転手としての所作ができていなかった点。特に客の乗降の際のぶっきら棒さ。これは個人タクシーとしては決して稼ぎが良くない(冒頭に数字が出てくる)ゆえであろうが。老人保健施設のあの対応のしょっぱさも気がかりなのだが、実母を預けてある私から言わせると、現代の施設ってどこもあんなもんです。むしろリアルすぎてよく取材をしたものだなと感心させられた。

 物語としては落ち着くところに落ち着いた現代の寓話。ベテランの山田洋次監督の衰えない手堅い演出と、最新のCGを用いた画面構成も見どころ満載。決して大作というわけではないが映画ファンの心をほっこりさせてくれる良作だった。

ひぐまさん
PR U-NEXTなら
映画チケットがいつでも1,500円!

詳細は遷移先をご確認ください。