劇場公開日 2025年10月31日

「緊張感で魅せるが、不可解な点も多い」爆弾 アラ古希さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 緊張感で魅せるが、不可解な点も多い

2025年11月7日
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鑑賞方法:映画館

原作は未読である。酒屋で自販機を蹴って警察に逮捕されたホームレス風の男が、逮捕されて取り調べを受けているうちに爆弾事件を次々と予言し、真相を明らかにしようとする刑事とのやりとりが主要な見せ場になっている。

2時間を超える上映時間で緊張感が切れない作りは見事で、佐藤二朗の怪演も見応えがあったが、見終わってから冷静に考えてみると、色々と釈然としないところがいくつもあることに気が付いた。

まず、ことの発端となった長谷部刑事の不祥事だが、確かに不名誉なことではあるものの、人を殺したり汚職を働いた訳でもないのに、一家離散に追い込まれたというのがちょっと解せなかった。実際、交番で当直中の男女の警察官が性行為をしたのがバレても、減給1ヶ月程度で済んでいるのである。

それによって世間に恨みを持った者が復讐のために事件を起こしたとしたら、明らかに過剰な復讐であり、無辜の市民を大勢殺傷するという行為は、同害報復という刑法の原則を大いに逸脱するものであり、同情する気が完全に失せた。まるで貞子級の呪いのようなものに感じられた。

鈴木田吾作の行動原理も不可解だった。如何に真犯人に同情したとしても、裁判で有罪となれば死刑が避けられない状況に陥るというのに、全て自分が主犯となって行動した結果だと主張するモチベーションが十分に示されていたとは言い難かったし、爆弾や犯行に関する知識があるとも思えなかった。

石川辰馬にあのような細工を施すのも、ただのホームレスには無理だろう。ヒントの出し方も幼稚だし、最後の爆弾があのような結果に終わった理由も十分に説明されていたとは言い難く、不満が残った。いっそ田吾作が不治の病に罹っていて、最後の1発を田吾作が胃の中に飲み込んでいて、捜査室を丸ごと爆破するつもりだったとかいう結末にしたら面白かったのにと思った。

役者は、佐藤二朗の怪演に尽きるが、ホームレスにしては歯が白かったのが違和感を感じたし、頻繁に顔をアップで示す必要性があったのかという疑念が晴れなかった。山田裕貴は佐藤二朗の煽りを受けてやや物足りなかったし、寛一郎や伊藤沙荊の使い方は不十分で勿体無いと思った。

耳に残る音楽がほとんど流れなかったのも特筆すべきで、この監督は、音楽の持つ演出効果に全く期待していないとしか思えなかった。エンディングで流された全く関係のない歌謡曲も不愉快だった。
(映像5+脚本4+役者5+音楽1+演出5)×4= 80 点。

アラ古希
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