劇場公開日 2025年4月19日

「意外な姿」太陽(ティダ)の運命 SOさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0意外な姿

2025年7月18日
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鑑賞方法:映画館

翁長知事在籍当時は某インターネット掲示板をよく見ていた。現在のSNSもそうだが、利用者がほぼ本土にいる以上、インターネット上にも本土寄りの意見が多いのは当たり前である。当時(便所の落書きと言われる)掲示板では、基地を置かせない翁長知事は頭の硬いアホ、沖縄県民は大局の見えていないバカくらいにとらえる風潮だったし実際自分もそう考えていたと思う。

今になって翁長知事はどういう人物だったのか、沖縄基地問題はどういう経緯があるのか興味があってこの映画を鑑賞。
晩年の印象からすると意外なほど、彼は最初からここまで頑なな態度ではなく、県民の納得や安全も加味した上でしっかり折衷案の模索・提示を行っていた。
映画で取り上げたもう一人の知事、太田知事の時代にも言える事だが沖縄側から歩み寄りを提示して何らかの合意に至ったのち、その度に歩み寄りを大幅に超えた処遇を進めようとしてきた政府側のやり方は沖縄側からすれば裏切りととらえられても仕方なく、そういった政府側への度重なる失望を経て、徐々に頑固な翁長知事となっていった印象を受けた。もし、稲嶺知事時代の翁長が、のちの翁長知事を見たら自身の変質に戸惑うだろう。

日本が差し出しやすい沖縄を盾として東シナ海の防衛をおこなう構図は、アメリカが日本を盾にして中国の海洋進出を牽制する構図にも似ている。最大多数の最大幸福を実現するためには犠牲となる少数(往々にして弱者)が必要になる。一方で、じゃあどうすればいいのかと問われればどうしようもないというのが現実でもある。特に一度着工してしまった大規模な工事は何をしてももう止められないし、当然県外に移設する事もできない。翁長知事の言うように手段を選ばす基地建設を食い止めようとしてきた結果、工事車両の前に身を投げ出した老婆を救おうとしてついに警備側スタッフが命を落とす事態にもなった。映画でこの事件に触れないのは、やや一面的な構成ではないか。

多数派として普通に生きているだけだと、皺寄せを食う少数の気持ちや境遇は分からない。この映画を見たのも何となくだが、エンドロールが流れる頃には、基地問題に限らず誰しもがたまには異質な物や普段触れない物に何となくでいいので興味を持つ事が理解への第一歩だなと思うようになった。

SO