「戦争のリアルを伝える名作」ペリリュー 楽園のゲルニカ アラ古希さんの映画レビュー(感想・評価)
戦争のリアルを伝える名作
原作は未読である。史実を元にしたフィクションだそうだ。執筆のきっかけは、2015 年4月に、戦後 70 年を記念して当時の天皇皇后両陛下(現・上皇上皇后両陛下)がペリリュー島を慰霊訪問されたニュースだったそうで、その翌年から5年間雑誌に連載が続いたそうだ。それが今年、戦後 80 年を記念して映画化されたようだ。
今年は「木の上の軍隊」「雪風」と戦後 80 年を記念した良作が立て続けに公開されて来たが、いずれも戦場のリアルさは深く関わった人間を通して描かれている。また、戦中の様子よりも戦後の様子に重点が置かれているのも共通している。
原作漫画と同様に、人物は3頭身のコミカルな姿で描かれていて、生々しさをいくらか軽減していたと思うが、見慣れるにつれ、徐々にその表現での容赦ないリアリティが感じられて、見終えた後にはかなり重いものが残った。また、兵器や車両や戦闘機などは実にリアルで、人物の表現とは大きく乖離していた。
サイパンやグアムなどで日本軍が次々玉砕したというニュースが聞かれるようになった頃に、日本兵約 10,000 が籠るペリリュー島に、米軍は 30,000 を超える兵力を投入して島を奪還すべく艦隊を送り込み、蟻の這い出る隙もないほど取り囲んで上陸作戦を敢行した。武器も食糧も尽きかけた状態で戦闘を続けるという状況は、「木の上の軍隊」と同様であるが、極度の飢餓状態に置かれながら、敵の缶詰を食べるのを潔しとしなかった「木の上の軍隊」とは異なり、ここの部隊はむしろ積極的に米軍の物資を略奪して生存と抗戦維持を図ろうとしている。
終戦を知らずに1年以上島に潜伏していた残存兵に、日本が降伏したのではないかと思われる写真が載ったアメリカの雑誌がもたらされて、兵たちは様々な意見を出して対応を協議する。この情報が本当なのかどうかを確認するには、投降して敵に捕縛される必要があるのだが、当時の日本軍において、投降は死刑相当の重罪である。どうしても真実が知りたければ、軍法を冒す必要がある。
本作の最大の見どころがその対応の相違である。真実を知りたくて、自らの生命を危機に晒しながら投降を決行しようとする者と、彼らを殺害してでも止めようとする者たちの生命のやり取りが悼ましい。現代の視点で見れば、争う必要のない状況が世界中を変えてしまっているのに、ここでは無駄な血が流されようとしている。
板垣李光人や中村倫也が声優として参加しており、熱意が伝わる演技を聞かせていた。見終わって重いものを抱えた観客に、上白石萌音が歌う曲の素晴らしさは大変な救いになった。この歌声は、「TOKYO タクシー」の倍賞千恵子の歌声に匹敵する見事なものだった。少しでも多くの人に見てほしい映画である。
(映像5+脚本5+役者5+音楽4+演出5)×4= 96 点。
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