「4頭身にデフォルメされた兵士たちの死は、かえって凄惨さを強く冷たく刺し込んできた」ペリリュー 楽園のゲルニカ LukeRacewalkerさんの映画レビュー(感想・評価)
4頭身にデフォルメされた兵士たちの死は、かえって凄惨さを強く冷たく刺し込んできた
12/5(金)公開初日@新宿バルト9。
結論から言って、今年観た150本超の映画(実写、アニメ含めて)の私的ベスト10に入る。
戦争を描いたアニメは、古くは『火垂るの墓』、9年前には『この世界の片隅に』、そして戦後80年の今年の最期にこの『ペリリュー』だ。
考えてみれば、上記2作は「銃後」(戦時中の国内)の庶民の生活を描いたが、最前線の戦闘や飢餓を描いてきた映像作品は、実写では古典的な『野火』をはじめ数多くあれど、アニメでこれだけきっちり描いたのは初めてではないか?
(漫画<劇画>としてはかつて水木しげるが描いていたけれど)
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以前の劇場での予告はティーザーというか、ジャングルの背景に阿鼻叫喚がかぶって聞こえ、「10,000人」が「34人」にカウントダウンするというものだったが、公開直前になってキャラクターデザインが4頭身wのクレヨンしんちゃん風だということを知って愕然とした。何しろ原作コミックを知らなかったもので。
スクリーンで観れば、なるほど、シンエイ動画が制作か。文字通りクレヨンしんちゃんだ。
その、「南方の戦場」と「ほのぼのしたプロポーションのキャラクター」のギャップを半ば恐れながら、半ばわくわくしながら観ていくと・・・。
エラいものを観てしまった。
戦闘シーンは、昨今のVFXを駆使した凄惨かつグロい実写の映像より、ある意味こちらのほうが余計おぞましいかもしれない。
まるでレゴのような4頭身の兵士たちは、米兵も日本兵も、頭をヘルメットごと撃ち抜かれ、目玉が飛び出し、砲撃で手足が千切れて戦友の上に降り注ぐ。
日本兵は「お母さん・・・」と事切れ、鬼畜米英の兵も「Mommy・・」と呟いて死んでいく。
そのデフォルメされた「死にざま」は、残虐さをマイルドにするためのデフォルメではなく、かえって冷たいものをみぞおちに刺し込んで来る、変なリアリティを呑み込ませてくるデフォルメだった。
そして『木の上の軍隊』でも炙り出されていた「生きて虜囚の辱めを受けず」の戦陣訓を狂信し、歪んだ武士道で犬死にを強いられる兵卒たち。
しかし指揮官は『木の上の軍隊』と同じく米軍のレーション(粮食)を盗むことで自ら生き延びることを選択する。
ただ、さらにそこから「持久戦に持ち込んで援軍を待つ」という希望的観測で行動する発想と集団心理は、めちゃくちゃバイアスが掛かった悲喜劇だとしか言いようがない。
その中にあっても、こんな死に方は嫌だ、と信じる主人公・田丸と盟友・吉敷、あるいはひっそりと「うまく投降するには」を語る上等兵・小杉、数十名の命運を握りながら揺れ動く島田少尉・・・さまざまな思いが交錯する。
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田丸は、戦友の「勇猛果敢、一生報国」の死に様を記録し、のちに上官が遺族に手紙を書くための情報を準備しておく「功績係」だ。
そしてこの田丸の役割が、最後の最後で大きな意味を持つ。この史実に基づいたエピソードを巧みにマンガの物語に取り込み、また脚本で活かして上質な映像作品を仕上げた制作陣には、本当に感服する以外にない。
VCは、田丸に板垣李光人、吉敷に中村倫也。板垣は『ミーツ・ザ・ワールド』でも朝ドラ『ばけばけ』でも良い演技をしているなぁ 中村の上手さは安定している。
エンドロールの歌唱は上白石萌音。最後に彼女の歌声を聴けて、ちょっと癒やされた。
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