「長崎の被爆直後の状況を描いた作品として、記憶にとどめるべき一作」長崎 閃光の影で yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
長崎の被爆直後の状況を描いた作品として、記憶にとどめるべき一作
広島の原爆被害を描いた作品は、映画だけでも『ひろしま』(1953)を始めとして多数存在する一方、長崎の原爆を、しかも被爆前後の状況を含めて描いた作品は木村惠介監督の『この子を残して』(1983)などごく少数にとどまっており(『ウルヴァリン:SAMURAI』[2013]も長崎の原爆を描いていると言えば描いているんだけど…)、その意味でも本作は、永らく記憶にとどめる作品であると言えます。
3人の看護学生(菊池日菜子ら)の目線で捉えた原爆投下直後の長崎の状況は、正に酸鼻を極めたもので、カメラは破壊された市街地よりも生死を彷徨う被爆者の姿に焦点を当てていきます。例えば救護所の所在を呼び掛ける看護師たちに、崩壊した浦上天主堂に向かって列をなす被爆者たちが語った言葉。これは長崎の人々の叫びだ…と感じさせるものがありました。
被爆から一週間も経たず日本は降伏しましたが、当然長崎の惨状がそれで大きく変わる訳もなく、数少ない医療従事者は、自らも被爆しながらも乏しい設備・医薬品で、引き続き増え続ける被災者の救護に当たらざるを得ませんでした。
この場面で菊池日菜子扮するスミと勝(田中偉登)の交わす言葉がとても印象的です。勝は戦争が終わり、出征する必要がなくなったことに安堵しますが、スミは勝の言葉を、日本男子にあるまじき言葉として一喝します。このように当時の日本人が女性も含め軍国主義の精神性から逃れられなかったことを明確に描いたうえ、さらには民族的な意識に基づいて救護の選別を行っていた描写も盛り込むなど、単に救護に奮闘する姿を描くだけでは見えないような「影」も敢えて描写に含めており、それがむしろ「可能な限り被爆の実相を描き出そう」という作り手の覚悟と真摯さを感じました。
軍人精神を具現化したような、凛とした態度の看護婦長(水崎綾女)の顛末、戦争孤児たちの姿など、冗長にならない程度の時間枠の中に、端的に「戦後」のありようを織り込んでいく作劇も印象的でした。
『ひろしま』(1953)と並んで、本作もまた一生に一度は観るべき作品だと思いました!
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