劇場公開日 2025年8月1日

「こういう戦争体験記は、それがほんの一面に過ぎないとしても繰り返し語り続けられなければならない。」長崎 閃光の影で kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 こういう戦争体験記は、それがほんの一面に過ぎないとしても繰り返し語り続けられなければならない。

2025年8月13日
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鑑賞方法:映画館

赤十字看護婦たちの手記が原案。
日本人にしか語れない、日本が作るべき映画なのだろう。
劇映画としては、もう少し何とかできなかったかと思う部分はあった。犠牲者の描写も緩い気がする。
しかし、後世に語り継ぐべき長崎の被爆体験をかたちにした点において、この映画の意義は高い。

3人の看護学生が、赦せるか赦さないかの議論を戦わせる場面が最も印象深かった。
人間には人を憎んだり恨んだりする回路が埋め込まれている。そうでなくても鬼畜米英のプロパガンダの下、家族や親しい人たちが米軍の無慈悲な殺戮の犠牲になるのを目の当たりにした少女たちだ。
それでも赦すべきだと説くクリスチャンの少女に対して、家族を亡くした少女は赦せないと言い、両親が無事だったもう一人の少女に八つ当たりをするが、そんな自分も赦せないと泣く。
大阪の看護学校が空襲によって休校となり、郷里の長崎に戻った少女3人。そこで原爆投下に見舞われたものの辛くも助かっていた。
固い友情で結ばれ、ともに過酷な救護活動に従事していたのだ。
田中スミ=菊池日菜子
大野アツ子=小野花梨
岩永ミサヲ=川床明日香
モデル出身の菊池日菜子と川床明日香が見事に演じていて、この二人を演技派の小野花梨が牽引している。
現在の田中スミだと思われる老婆の語りで映画は始まり、また彼女の語りで終幕する。この語りの声にキャスティングされた美輪明宏は長崎の被爆者だそうで、終幕に姿が映し出されるその老婆は手記を描いた看護婦の一人だという。
監督兼共同脚本の松本准平は、長崎の被爆三世だとのこと。

原爆が無差別殺戮であることは、東京大空襲も同じだ。だが、強烈な爆発で粉々になり、熱射によって黒焦げになるだけでなく、即死を免れたとしても放射能被爆が人間を破壊するのだから恐ろしい。
この映画では描かれていないが、被爆者とその家族への差別という市民同士の恐ろしい二次加害まで生みだした。

献身的に治療と救護を行う医療従事者は、長崎の被爆地にもいたのだ。薬もない、水もない、設備もない状況での懸命な救護活動が展開する。
悲惨な救護現場から離れようとする看護婦や、疲弊して患者を投げ出しそうになる医師の姿もあった。みんな人間なのだ。
一方、この惨状においても高圧的な言動の軍人はいたようだ。
当時の世相として人種差別があったことも描かれている。
これらの細かいエピソードには、リアリティがある。

毎年8月になると戦争を振り返る企画があちこちであり、テレビは各局が競って特番を組む。
今の若者たちは、そんなテレビからは離れてしまって、ブラウザやアプリの向こうに戦争とは無関係のコンテンツを求めているのだろうか。

日本の核保有をとなえる政治家が一部で支持を得るという現象に愕然とする。
核保有論の基盤には抑止力説があるのだと思うが、たまたま今は均衡が保てているだけなのだ。
いつ何時、過信しすぎた武力主義の元首が現れるか分からない。圧倒的な軍事力の差があるアメリカに戦争を仕掛けた80余年前の日本の指導者のように。

kazz
トミーさんのコメント
2025年8月21日

コメントありがとうございます。
市川版野火、凄そうですね。今作、塚本版、雪風・・戦争映画は色んな温度差が出るのも興味深いですね。

トミー
ゆり。さんのコメント
2025年8月21日

コメントありがとうございました。人種差別は(赤十字の看護婦ではないとしても)あったと私も思います。被ばくで顔にやけどを負った子供が、学校でピカドンというあだ名をつけられたという話も聞きましたし、人は自分より格下の存在を設定して見下したりあざけったりするものなのだと思いました。
ミサヲは赦すと言いましたが、あの時点ではまだ被害の全容は知らず、その後の原爆症で多くの人々が長い事苦しむ事も知らない女の子の発言です。
自分が発症して、それでも赦しの心を持ち続けられたのか、そこも描いて欲しかったです。

ゆり。
トミーさんのコメント
2025年8月14日

共感&コメントありがとうございます。
今年は80年って訳でもないのですが、これからコルチャック先生、野火、雪風と観る予定です。濃淡ありますが、日本はバンバン敵を殺す作品はかろうじて少ないですかね。

トミー
トミーさんのコメント
2025年8月14日

快楽亭ブラック師匠がブログで、この時期は戦争に関する映画を観るのが映画ファンと言っていて一理在るなと思いました。

トミー