劇場公開日 2025年8月1日

「不穏さを増すこの現代世界に伝えるべき記憶」長崎 閃光の影で 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 不穏さを増すこの現代世界に伝えるべき記憶

2025年7月24日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

80年前の記憶を伝える本作は、言うなれば正解のない映画だ。あの日の惨状をどれだけ詳述しても十分過ぎることはなく、かと言って、それだけに留まると観客の胸に届くべきドラマ性が薄まってしまう。おそらく題材を掘り下げれば掘り下げるほど描くべき要素は増えるばかりで、何をどう削ぎ落として作品を紡ぎ上げるかは葛藤の連続だったに違いない。その末に生まれた、3人の新米看護師を視座に据えた物語構造を私は評価したい。10代の少女にとって現実は過酷だ。あの日あの時、彼女らは何を見て、何を感じたのか。私の祖母も当時ほぼ同齢だったことに鑑賞中ふと気づき、胸に込み上げるものがあった。また、本作は惨状を描くだけでない。生き残った者が明日を生きようとする。そうやってこの広い空を繋いでいく映画でもあるのだと感じた。日々、不確実性を増す世界で、本作が心と理性の防波堤となって、人々に何かを感じるきっかけをもたし続けることを願う。

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牛津厚信