「「試される場所」としての面白さ」8番出口 しーぷまんさんの映画レビュー(感想・評価)
「試される場所」としての面白さ
ゲームは履修済み。
映画鑑賞後に小説版も読みました。
結論から言うと「大傑作!」…とかでは全然無いですが、
なかなかのクオリティのエンタメ映画として仕上がっていたと思います。
川村元気さんの携わる作品って、
「演出とか小ネタ要素によるファンサービスは結構良いんだけど、お話がなぁ…」みたいな印象の作品が多いんですが、
今作は原作ファンへのファンサービスはそこそこに、
面白かったけど「無限ループする間違い探し」以上のナニモノでもなかったゲームにうまーくストーリーを肉付けしていたと思います。
その上手い肉付け点をいくつか紹介します。
①「試される場所」としての8番出口
…上述したように原作となるゲームはストーリーは一切なく、
1〜2時間で終わる所謂「間違い探し」です。
その見せ方や日本の地下鉄のリアルな描写や「どの地下鉄も似たような景色」などを利用した間違い探しという点が評価されたゲームだと思っていますが、
このゲームに「人生の岐路に立っている人、過去に過ちを犯した人が時折迷い込む『試される場所』」というストーリー性を持たせて、
「主人公(プレーヤー)がなぜこの空間に迷い込んだのか」という考察に一つの回答を示しています。
②「歩く男」のバックストーリー
…ゲームでは色々考察のしがいがあった「歩く男」という"ギミック"ですが、
本作には彼(と彼が出会う人)にもバックストーリーを持たせて、「選択を間違えた結果この空間に取り込まれた人」という「主人公のあり得たかもしれない結末」を暗示させています。
③主人公の成長=脱出
…ここは小説版を読んだからより鮮明に見えるのですが、
主人公(や歩く男等)が相対する異変のいくつかは「主人公の過去・現在・未来への不安やトラウマのメタファー」になっています。
それらと「きちんと向き合えるかどうか」「乗り越えて成長できるかどうか」で脱出できるかどうかに結実します。
上手くストーリーをゲーム性に溶け込ませたなと思いますし、ここら辺は「さすが川村元気さん」といった所でしょうか。
④演者の好演
…ちょっと過剰に見える演出もありましたが、
二宮和也さんの「ごく普通で選択に迷う男」の演技は凄く説得力がありましたし、
河内大和さんの「歩く男」の切実さや小松菜奈さんの「ミステリアスな元カノ」の存在感でこの割とテンプレな物語をチープなものにならないようにしてると思います。
ただし、「小説版を読んだからこそ」気になる所もありました。
❶主人公の設定
…これは小説読んでなくても気になったと思うんですが、「主人公が喘息持ち」という設定があるのですが映画版だと後半空気になります。
これは小説版で「某ウィルスの後遺症」という説明がなされていたり、小説の後半で出逢う(映画には出てこない)人が「この空間から出られなかった世界線の未来の自分」を想起させる為に必要な設定だったのですが、
映画版だと丸々端折られてるのでいらなかったですね。
あと「3.11によって親友であり元カノの初恋相手を失ってる」という設定があったり、それがキッカケで「主人公と元カノの間に距離ができて別れてしまう」というバックストーリーがあって、それが物語後半の「津波が襲ってくる」異変に繋がっていて主人公はトラウマを刺激されているわけですが、そこら辺も端折られてるので小説読まないと原作のゲームにあった"床が水浸しになる"異変を派手にしただけにしか見えません。
ここら辺はもう少し上手くやれたんじゃないかなと思います。
❷チープなCG
…物語後半で出てきた「人の顔のパーツを持つネズミ」の演出はどうしてもチープに見えてしまいました。
「赤ん坊の泣き声」をやたら強調してるわりには前半のロッカーの異変以外はそんなに「主人公のトラウマを刺激する異変」にあんまり見えなかったのもマイナスポイントです。
❸「歩く男」の末路
…ここはもう少し説明が欲しかったですね。小説版だとかなり嫌な奴になっていてそこが映画版だとマイルドになってて良かったのですが、
一方で彼の「自分の粗暴さが原因で離婚して会えなくなってたけど久しぶりに息子に会いたい」「その為にここから早く出たい」という思いをもう少し説明すべきだったと思います。
彼の性格をマイルドにした反面「因果応報感」が薄れてしまったので、「優しく振る舞ってるけど最後の最後で昔の自分の性格が出てしまった」という流れの強調が欲しかったです。
こんな所かな?
小説版は小説版で色々ダラダラ説明が長かったりもするので映画化に際して演技や演出で見せて説明を大きく端折ったりもしてるので映画化するに当たって結構考えられてるとは思います。
繰り返しますが「大傑作」とかではないです。
でもエンタメ映画としてはかなり楽しめたので普通にオススメです。
