「初『トロン』」トロン:アレス くめいさんの映画レビュー(感想・評価)
初『トロン』
『トロン』シリーズは一作目が1982年。全編にCGを使った初の映画作品で、数々の作品・巨匠に影響を与えたのだとか。私が生まれる前の映画なので当然未視聴。
一応予習しようかとも思ったがU-NEXTにはなし。なのでこの作品のみでの評価。2作目『トロン:レガシー』も当然観てません。
さて、一言でまとめると『映像と音楽は良い。がストーリーがあまりにも凡庸で表面的』。あんまり考えずに映画館で迫力を楽しむには丁度いい映画。
まず、初めの違和感は主人公であるアレス(ジャレッド・レト)の自我の目覚めがあまりにも早いこと。なんとなく『戦闘マシーンのはずが自我に目覚めてタイムリミットを外しに暴走するのかな…』とか思っていたが戦闘マシーン時代が初めの戦闘訓練(5分)しかない。
初の本格戦闘であるハッキングミッションでは破損した仲間を見捨てようともしないし、創造主の命令にも歯切れ悪く了解する。
加えて、80年代のポップ・ミュージックが好きという謎設定。後々の流れで80年代のグリッド(電脳世界)に行くのだけれど、そこがオリジナル『トロン』の世界で、つまり観てきた人へのサービスの一環なのかな、と勘繰ってしまった。
とにかく好きだと語ってくれるのだけれど、AIなので処理が速いのかちゃんと聴いているシーンもないので根拠が感じられない。加えてラストではファッションもバイクも80年代なので『こいつ80年代なら何でもいいのでは?』とすら感じた。
ただし、ジャレッド・レトの浮世離れした雰囲気とつぶらな瞳はちぐはぐにも感じる設定や妙に達観した言動にも一定の説得力を持たせている。嗜好の作られていく過程、ヒロインとの交流など描き切れていない部分は多いが全体としては魅力的なキャラだと思う。
さて、ストーリーはデジタルな存在を現実に持ってこれる技術のある世界。ただし現実では29分で自壊してしまうので、そのリミットを解除するコードを巡ってひと悶着。そのなかで兵士『アレス』は使い捨てのプログラムから脱し、自分の命を得るために創造主を裏切る…という話。
どこかで見たような設定で、しかも先述した通りアレスは最初から自分の存在に疑問を持っているので話が早い。想像通りのセリフと流れが延々と続き、予定調和のように一度きりの人生の喜びへとリンクさせる。個人的に面白かったとこといえば『フランケンシュタイン』と重ねた部分。完璧超人を象った『アレス』は美しい部分のみを集めて理想を形作ろうとした怪物と確かに重なるものね。
映像はクオリティ高いが、観てて楽しかったのは水上バイクの辺りくらい。ナイン・インチ・ネイルズの曲が話題だけど思ったより前面に出てない、けどここでの使い方は良かった。ラストでもう一回くらい聴きたかったけどね。
映画全体からゲームへのリスペクトを感じるが、一方で既視感も強い。予告でもあるバイクチェイスは『グランドセフトオート オンライン』のミニゲームでそのもののがあったし、その発想があれば武器から軌跡が残る発想も当然ある。
グライダーは『ニーアオートマタ』ですでに何年も前に衝撃を受けている。赤い残影は視覚効果として面白くはあるけど、革新的とまで言うと誇張かな? と思う。
電脳世界では壁を歩いたりしていて『電脳世界だから現実の物理法則は関係ないよ』みたいな感じだったけどそれ以上が無かったのは勿体ない。『マトリックス』と世界設定はほぼ一緒なのだからそのくらい新しい映像を見せてほしかった。もしくは怒られそうなくらいパロディしてくれるとまだ面白かったのだけれど。
まぁ、やりすぎると後半(現実での戦闘)が地味に見えちゃうかな。
特に台無しだったのはポストクレジットシーン。『続き作りたい!』というあからさまなアピール。キャラを描く尺を削ってありきたりなプロットをなぞることに終始し、それでも最終的にアレスが『人類が私に会うのはまだ早い』と戦闘スーツを脱いで旅に出て落着したのにそれはない。
活かせてない設定が多いとは思う。アレスらはプログラムなのだけれどコピーもしないし『感情はバグ』といいつつデバッグもしない。本編の出来は悪くないけどパターンとしては100分かけてキャラ紹介を見せられた『モービウス』と同じ感覚。本当は星3.2くらいにしたいのだけれどできないのでおまけして3.5。
Not Classic.
