「オマージュに溢れていた」トロン:アレス LukeRacewalkerさんの映画レビュー(感想・評価)
オマージュに溢れていた
ごくたまに、作品の内容はともかく最新のCG(VFX)がどうなっているのか、と偵察に行きたくなることがある。今回もほぼ期待せずに映画館に足を運んだ。
トロン、とは懐かしいな。
調べてみたら、『トロン:オリジナル』(今は「オリジナル」を付加するらしい)は1982年公開とある。2年前にナムコがアーケード用に「パックマン」を公開して大ヒットし、1年後に任天堂が初代ファミコンを発売した、そんな年だ。
前後するが、『アレス』を観た日の夜に、Amazon Primeで改めて『オリジナル』を観てみた。
いやはや、当時初めてCGを使ったSF映画として話題になっていたが、その視覚効果やプロット、脚本や演出も含めて、シャレかと思えるほど80年代テイストが満載である。
もはや『メトロポリス』並みの手作り感にあふれた作品で、背景と人物の輪郭の境目の光学合成のギザがほのかに見える点はご愛嬌。あと十数秒で生死の分かれ目に直面するだろうというシーンで男女が見つめ合って愛のキスなど交わしてしまうあたりなど微笑ましい限りだ(←一体どういうことだ)。
余談ついでにどうでも良い余談を付け加えるが、この『オリジナル』の脚本家のボニー・マクバードの夫は、アップルのUI思想を具現化しのちにアップルのフェローになったアラン・ケイで、結婚式の介添人はMITメディア・ラボの初代所長ニコラス・ネグロポンテ 、披露宴で楽器演奏をしたのはコンピュータサイエンスに認知心理学を持ち込んだマービン・ミンスキーだったらしい。
当時の最先端人材が、やたらに絡みまくっていたようだ。
さて、『アレス』の中で、82年当時の『オリジナル』を観た人なら泣いて喜びそうなシーンが出てきた。現代のフルCGの中で最新AIプログラム兵士アレス(演:ジャレッド・レト)が80年代モードに迷い込むこととなり(このとき、アレスは周りを見渡して"Hello, 80's."とボソッと言う。ここは笑った)、光るバーを取り上げると、あの当時のライトサイクルが登場し、これに乗って80年代的動きで疾走するのだ。
この作品『アレス』では、ライトサイクルの他にも、「監視機」が現代風の精密なメカニックとして登場するが、当時の(まさにテレビゲームの中に入ってしまった風の)ノスタルジックなものと対比してみると強烈におもしろい。
そしてもう一つ、個人的に「おっ♪」と喜んだショットが。
逃げる主人公のキムを追いかけるライトサイクルが高速道路の分岐点で一瞬逃げられてしまい、横滑りしながら止まるシーンは、例によってさまざまな作品で繰り返しオマージュされている『AKIRA』の金田のバイクが止まるシーンだ。
YouTubeで「【AKIRA 金田のバイクシーン】 オマージュ集」で検索すれば確認できる。
そして物語が進むにつれ、『アレス』の思考や自我の芽生えを観ながらぼんやり思ったのは、これって『ターミネーター2』に構造がちょっと似ているなぁ、ということだ。
キムを捕らえて永続プログラムを収奪するよう命令されるが、やがてキムとともにプログラムを守ると決意し、裏切り者として追われる。その刺客となった元部下のアテナは、消失しても何度も甦る。まるでT-1000のようだ。
ディズニー作品だと思って少々高を括っていたが、案外随所に現場のクリエイターたちの仕掛けが隠されているようで、意外なおもしろさを発見できた。
