カレンダー・キラーのレビュー・感想・評価
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ドイツ発のスリラー映画…、だけではすまない深刻な社会派映画
AMAZON MGM Studios 製作
ドイツ原題’Sebastian Fitzeks Der Heimweg’ 「帰り道」の意(前半は作家名) 同名の原作は2020年発表
英題は邦題と同じ’The Calendar Killer’
ジュールスは帰宅ヘルプホットラインのボランティアをしている。クララという女性から電話がきた。 カレンダー・キラーに殺されると。
カレンダー・キラーとは最近多発している殺人だが、壁に殺害日が書かれているためそう呼ばれている。
夫に「VPナイト」という謎の会員制クラブに連れていかれる。(VP=ヴァイオレンス・プレイ) そこで意識を失い、目覚めたらメッセージがあった。
DV、DVの連鎖、被害妄想、間違った正義感。
最後に明かされる真実。
しかし、映画を見ている私ももっと早く違和感に気づくべきだった。
かかってきた初めての電話。DV履歴。
クララは子供への深い愛で助かった。
しかし一方、妻の最低限の子供への思いやりが、思いもしない結果により、夫の歪んだ心を増幅させた。
現実ならゾッとするが、映画名なら秀逸な「カレンダー・キラー」のタイトルもいい。
…………
日本語版キャスト
主人公 クララ:永宝千晶、帰宅ヘルプ交換手 ジュールス:川本克彦、夫 マルティン:清水優譲
思ってた作品とは違ったが
VPナイトとは
VIPの集まりかと思ったら、まさかのバイオレンスプレイだとは・・・クズ男たちだけではない。富裕層にも存在するDV。しかも、パーティの席で薬を飲ませて!とか信じられない世界。そうして見守り隊のジュールスがその事実を聞き、助けようとするのだが・・・
「帰宅ヘルプ・ホットライン」なる慈善団体(?)の消防署緊急通報司令官だった男ジュールス。今年の冬ドラマ「119エマージェンシーコール」と被ってしまうくらい、緊迫した場面もあるし、逞しい存在だと思わされるのがミソ。
カレンダー・キラーの正体は何となく想像できるものの、徐々に登場人物が増えていきミスリードされてしまう。そもそも妄想癖の疑いをかけられているクララなんだからミスリードだらけのサスペンスと言っても過言ではない。
連続殺人事件は解決したけど、その後のエピソードが辛辣。最初からホットラインの録音にこだわっていたし、電話がかかってきた時から証拠を残そうと必死になってるクララの心情が興味深い。
暴力による征服欲から逃れられない男。子どもと自分の為に知力で戦う女
凄い!時間、空間共に緻密によくできている。ベストセラー小説が原作だがよく映像化できたと思う。季節はアドベント、舞台はベルリン。家族親戚が集まるクリスマスを心待ちにする待降節の時期に、家族によって引き起こされる暴力と心の傷という負の連鎖の犯罪が起きる。
主人公のクララは「愛していた」夫のマルティンから日常的に暴力を振るわれ人目に晒される性的暴行まで受ける。反抗するとまた入院させると脅される。優秀な弁護士であったクララはすでに何年も母親・主婦で居ることを強制させられ自分の交友関係も夫に絶たれている。それでも最後までクララが耐えて持ちこたえられたのは彼女の冷静と賢さと娘への愛だった。クララに寄り添い支えているように見えた男の的外れの復讐も同時に明らかになる。
エンド・クレジット前に書かれていた:ドイツでは1/4の女性が人生の中で少なくとも一度は身体的・性的暴力をパートナーから受けている。被害者の女性はすべての社会階層にいる。
スティーグ・ラーソンの、そして彼の死後も書き続けられた『ミレニアム』1~6(第1巻が「ドラゴン・タトゥーの女」)を強く思い出した。この著書では部構成ごとに寸言のように統計が書かれている。第一部:スウェーデンでは女性の十八パーセントが男に脅迫された経験を持つ、第二部:スウェーデンでは女性の四十六パーセントが男性に暴力をふるわれた経験を持つ、第三部:スウェーデンでは女性の十三パーセントが、性的パートナー以外の人物から深刻な性的暴行を受けた経験を有する、第四部:スウェーデンでは、性的暴行を受けた女性のうち九十二パーセントが、警察に被害届を出していない。この著書の原題は「女を憎む男たち」。女性に対する偏見、軽蔑、暴力が全編を貫くテーマの一つだ。世界中でいまだなくなることがない。
最後までわからない「事実」
ドイツの社会問題である女性への暴力
これに連続殺人鬼を掛け合わせた作品
さて、
この作品の構造が最後までわからないことがこの物語の面白さだろう。
カレンダーキラーと称される連続殺人鬼
帰宅ヘルプホットラインというボランティアをするジュールス
何件かの利用者の実態
そして主人公クララの登場
彼女が夫から受け続けているDV
そしてそのクララがカレンダーキラーから受けた殺人予告
このまったくつながりそうもない出来事だが、最後に顛末がわかる。
しかし、
謎なのがジュールスの父
彼の行動は一見するとジュールスの手助けをしているかのように思える。
彼の目的も最後に明かされるのだが、この父の動き方はまったく理解できない。
彼の実力は相当なもので、いち早くクララの別荘を探し当ててしまう。
しかし彼の目的はそんなところにはない。
息子ジュールスの居場所を特定することが彼の目的。
そして最後の土壇場まで彼は隠れて様子を窺っていたことがわかる。
サンタの男をマルティンがボコボコにしていたのを見ていたからだ。
しかしながら、冒頭からすでに「彼」は「そこ」にいたことになる。
つまりそれが「当日」だったからで、帰宅した彼らに断罪する予定だった。
クララは娘の状態を心配し、ヴィコに見てほしいと依頼する。
これが物語をMAXややこしくさせていた。
彼は何故侵入者がいるのかわからず、何を奇妙なことをしているのか様子を窺っていたことが最後にわかる。
父が息子を探し出せない理由がそこにあったのだろう。
ネタバレになるのでこれ以上は語らないが、物語の作りとしては面白く、スリリングだった。
さて、、
エンドロール前に「ドイツでは4分の1の女性が親しい人からの暴力を経験」とあるが、知らないこととはいえ、どこにでも社会問題はあるのだと思わされた。
手足が自由になったクララが、夫など助けることなくすぐに娘の元に行ったのもよかった。
逆に、カレンダーキラーという殺人鬼になってまでこの社会問題を解決したいと思う気持ちに同情しないわけにはいかない。
彼の助けたいと思う気持ちと、殺したいと思う気持ちの同居は誰にでもあるものだ。
それが人間であり、だからこそ社会が救援者となるべきなのだが、あのSMクラブのように、ドイツでもまた権力者が率先してこの「異常」を楽しんでいることをこの作品が取り上げている。
フジテレビ問題がタイムリーだったことで、この作品が描く社会問題の根源を垣間見た気持ちになった。
悪くない。むしろ面白かった。
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