配信開始日 2025年2月14日

  • 予告編を見る

「凄腕狙撃手の設定を活かしきれず惜しいが、B級娯楽作と割り切れば吉」深い谷の間に 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5凄腕狙撃手の設定を活かしきれず惜しいが、B級娯楽作と割り切れば吉

2025年7月27日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

興奮

得体のしれないものたちがひそむ深い渓谷、その東西の断崖の上に向かい合って立つ2本の監視塔、それぞれに1人ずつ別の雇い主から派遣された男女の凄腕スナイパー、任務は谷から這い上がってくるものたちを撃ち殺すこと。アクションスリラーとしては前提の設定がなかなかにユニークで期待させる。

「セッション」でドラムを叩いていたマイルズ・テラーが元米海兵隊の男に、Netflix配信ドラマ「クイーンズ・ギャンビット」で天才チェスプレイヤーを演じたアニャ・テイラー=ジョイがリトアニア出身で東側の仕事を請け負う女にそれぞれ扮し、谷をはさんで双眼鏡越しに親交を深めるシーンではチェスの対局やドラムセッションに興じてファンを楽しませる。

前半は割と淡々と進みながら意外性もあって興味をそそられるが、アクション中心に舵を切る後半からはSFホラーにありがちなアイデアや要素をあれやこれやと詰め込んだ感じで、展開もジャンルの定番をなぞるまま。

主人公2人が凄腕スナイパーなのに、狙撃に関する描写が大雑把なのも物足りない。数km離れた標的を撃ち抜くのに、風の影響を考慮する様子が描かれない。派遣された先の備品であるライフルなど銃器を使うのに、照準器の調整をしたり手入れをしたりする描写もない。実在しないクリーチャーが出てくるフィクションだから、細かいところはどうでもいいという考え方もあるだろう。ただ、スターが出演する大味なシューティングゲームの映画版みたいにするより、リアリティのあるキャラクターとして細部を丁寧に描写するほうが、満足度も高まると思うのだが。

スナイパーを描いた傑作映画として「スターリングラード」「アメリカン・スナイパー」、古くは「ジャッカルの日」が思い浮かぶが、いずれも細部のリアルな描写と、狙いを定める「静」と狙撃の瞬間の「動」のダイナミズムで魅せる演出が秀でていた。まあ、これらの大作と比べるのは酷かもしれない。B級娯楽作と割り切って観るなら、ロマンティックな気分と敵が迫ってくるスリルと次々に撃ち倒す爽快感を味わえるだろう。

高森 郁哉