配信開始日 2025年2月14日

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「follow man の呟き」深い谷の間に かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0follow man の呟き

2025年5月7日
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APPLE TV+から配信されている最新SFは、また再びSF映画のブーム到来を予感させる出来映えだ。私が常日頃思っている、SFで最も大切な舞台設定が、この映画なんといっても秀逸なのである。切り立った崖に挟まれた深い谷を見張るため、東西両政府機関から選ばれた凄腕のスナイパー、リーバイ(マイルズ・テラー)とドラサ(アニャ・テイラー=ジョイ)。接触禁止の二人がやがて恋におち、政府機関の闇をあばくという物語になっている。

詩を愛する男リーバイと、癌におかされた父が予告自殺してしまうドラサ。政府の要請で長年人を殺しまくってきた2人には、PTSDと孤独という共通点があったのだ。恋とはするものではなく“落ちる”ものという話を聞いたことがないだろうか。お互いの中に自分と同じ何かを認めた時、おそらく男と女は“恋に落ちる”のである。ドラサの誕生日を一緒に過ごしたリーバイが翌朝谷に落ちた時、ドラサもそれを追って谷に“落ちる”のである。

銃火器以外すべてとり上げられた2人が、筆談と双眼鏡でコミュニケーションをはかる映画前半は、まるで『ユー・ガット・メール』。周囲数十㎞に人っ子一人いない空間でいつしか恋愛感情が芽生える展開は『パッセンジャー』を思わせる。しかし、Googleアースでさえ認識できないよう細工が施された異空間で、こんなラブラブな関係がいつまでも続く訳がない。谷底から這い上がってくる“ホローマン”と呼ばれる化物たちによって、2人はまた谷の両側に引き裂かれてしまうのだ。

“ホローマン”の科学的根拠?については是非映画を観ていただくとして、『地獄の黙示録』にも登場するT.S.エリオットの詩“THE HOLLOW MEN”についてここでふれておきたい。“空ろな人”と訳されるこの“HOLLOW MEN”とは一体なにを意味しているのだろう。世界の終わりに現れる実態のない人間たち。自分が何をやろうとしているのか本当のところわかっていない元アメリカ大統領のバイデンや元副大統領のハリスのような人間たちといえばイメージがわきやすいだろうか。

“多様性”によって世界を滅ぼそうとしている支配者に無抵抗で“FOLLOW”させられている我々もまた、その“HOLLOW MEN”とはいえないだろうか。今まで宗教によってかろうじて保ち続けてきた道徳心や異性愛をも放棄し、貧困という“谷底”からただ這い上がるためだけに生きている“今だけ金だけ自分だけ”のゾンビに過ぎないのではないか。そんな我々は刻々と近づいてくる“世界の終り”を、只すすり泣いて眺めることしかできないのだろう。

We are the hollow men
We are the stuffed men
Leaning together
Headpiece filled with straw. Alas!
Our dried voices, when
We whisper together
Are quiet and meaningless
As wind in dry grass
Or rats' feet over broken glass
In our dry cellar
(T.S.エリオット『The Hollow Men』より)

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かなり悪いオヤジ