「王道でカウンター」スーパーマン yudutarouさんの映画レビュー(感想・評価)
王道でカウンター
ジェームズ・ガンの『スーパーマン』、監督の新作として当然期待はしていたものの、またまた仕切り直しで、しかもまたもやレックス・ルーサーと戦うんか、というのもあり、予告でのヒーローやヴィランのルックスも何だかダサそうで、不安もかなりあったのだが、結果としては紛れもなくジェームズ・ガンの映画だったし、同時に今作られるべきヒーロー映画になっていて面白かった!
そもそも王道ヒーローに対するカウンター的な作品を撮ってきたジェームズ・ガンが、成功し、DCに招かれて反骨精神を捨ててしまったとは思えないまでも、どうしてヒーローの中でもっとも王道のスーパーマンを撮るのか、という疑問はあったのだけど、国や民族に関係なく、ただ人々を救う王道ヒーローがカウンターになってしまう、当たり前の正義や理想を語ること自体が非現実的な楽観主義と言われてしまう今の世の中だからこそジェームズ・ガンは意識的に王道ヒーローのスーパーマンをやったんだろうな、ということが強烈に伝わってきた。
それは劇中、クラーク・ケントがパンクロックのバンドのなかで好きだと名前を挙げたバンドを、パンク好きのロイスからそんなのポップパンドじゃんと揶揄されたことに対して、そんな誰にでも愛されるポップバンドこそ、いま、真にパンクなんだと返すくだりにも表れていた。何の当たり障りもないポップパンクバンドが、中心軸のズレてしまった今の世の中ではカウンターになってしまうということなんだけど、クラーク・ケントの実家の子供部屋にそのバンドのポスターが貼ってあって、田舎暮らしの幼い時分のポップバンドへの憧れを持ち続けてきたであろうクラーク・ケントの純心さが沁みて泣けると同時に純粋な憧れや理想を揶揄せずに真っ直ぐに貫くことがパンクになる今だからこそ、カウンター的な作品を撮ってきたジェームズ・ガンが王道のヒーローをやる理由の表明にもなっていた。
そして真摯で真面目なテーマを扱っていても、あくまでコミック映画としての軽やかさを保持していたのが素晴らしかった。例えば周囲から、そして自分自身でも自らをエイリアン=外国人という立場に置いていたスーパーマンが物語の終盤、レックス・ルーサーに対して、自分自身をエイリアンではなく、同じ地域に暮らす市民なのだと宣言する場面は、今のトランプ政権における排他的な移民政策への直接的なアンチテーゼであると同時にヒーローの守るべき市民とは誰かということへの明確な回答でもあって、めちゃくちゃ感動的なシーンだったのだが、直後にクリプト(ワンちゃん)をハチャメチャに暴れさせて重々しさを残さずにこれまでのDC映画にありがちな冗長な溜めを一切排除していたというようなところなど、作品から変な説教臭さを漂わせることなく、娯楽作品としてのテンポを損なわせないスマートさがあってすごく良かった。
あとはそこで暴れてたクリプトの扱い方も良くて、犬なので当然可愛いのだが、圧倒的に言うことを聞かないのが最高だった。コミュニケーションが取れてるのか取れてないのかよくわからないままに、それでも共に居るというのが実はテーマとも繋がっていて、クラーク・ケントとセットでチャーミングだった。
それから最近のヒーロー映画で毎回難題となっている悪役像もバッチリで、元来の設定を現代的にアップデートしたレックス・ルーサーは肉弾戦なら最強確定しているスーパーマンを苦しめる悪役としての説得力があったし、格闘でスーパーマンと互角に戦えるウルトラマンとのバトルも面白かった。そしてちゃんとスーパーマンの最強ぶりも怪獣戦や戦闘員軍団との戦いで気持ちよく見せてくれるしで、全方位的に目配せが行き届いていて最高だった。
それにしても今作はヒーロー映画に政治を持ち込んでいて気に入らないという本国での評判があるらしくて、政治と生活は切り分けられない要素であることは前提条件としてあるうえに、人々を平等に助けるのはヒーローの当たり前の行動原理だろよ、とか、そもそもファンタジーにこそリアリティが必須で、現状の政治を反映しないファンタジーなんてシラけるだけだろう、などということを抜きにしても、最近のマーベル映画のように現実からかけ離れた国際関係の様相や政治指導者の姿は物語世界内のリアリティを非常に軽くさせて作品の面白さを損なうことは明白で、アメリカでもそんなこと言い出したのかと思うとちょっとガッカリする。第一、そんな及び腰ぶりだって結局政治を反映しちゃっているのだから、それなら忖度抜きに現状の政治を見据えて作品に投影したほうが単純に作品の質が向上するだろうと思うのだが。
なんなせよ、そんな妙な方向からのクレームに屈することなく、ジェームズ・ガン流の前向きな理想主義を掲げたヒーローによるユニバースが続いてくれることを切に願う。今作に登場する他のヒーローたちや次の主人公としてフューチャーされそうなスーパーガールも魅力的だし、このまま新しいユニバースが展開していけば絶対楽しいだろうという期待しかないよ。