「レックス・ルーサー曰く、「頭脳は『わん力』に劣る」。 …違ったっけ?!」スーパーマン TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
レックス・ルーサー曰く、「頭脳は『わん力』に劣る」。 …違ったっけ?!
再始動したDCユニヴァースの新作にして異色のスーパーマン登場作品。
監督はMCUの作品にも携わった経歴を持つジェームズ・ガン。
MCUは『アイアンマン』と『アベンジャーズ』両シリーズの2作目見た段階で「見たければちゃんと予習してきなさい」的なスタンスが気に入らなくて、ガン監督の作品も含め、あとは一切見ていない。
本作はスーパーマンがヒーローとして登場してから3年目が舞台。監督はオリジンを描かないことを予告していたそうだが、みんな知ってるスーパーマンのことなので、マーベルのシステムとは事情が異なると思う。
公開開始から一週間後に観た時点でレビューの投稿数は既に四百越え。とても全部は拝見出来なかったが、作品の評価は概ね賛否両論。否定的な意見の多くが子供向けな作風をターゲットにしているように感じた。
ただ、スーパーマンは元はコミック原作。必ずしもアダルトである必然性はない訳だし、殊にダークな方向性に向かい気味のDCの映画化作品にとっては揺り戻しも必要だったのではと、自分は思う。
本作を子供向けと多くの人が感じる最大の要因はスーパードッグ、クリプトの登場にある。
レビューのなかでクリプトをバカ犬呼ばわりする人がけっこういたが、ただのバカ犬ではない。超バカ犬である。こんな奴、バカ犬の扱いに慣れてる筈の松本君だってきっと手を焼く。
圧倒的なパワーを持ちながらほぼ制御不能な点は、マーベルのハルクに相当する存在の超バカ犬クリプト。各種ジャスティス・リーグでの意見や価値観の相違からスーパーマンと理性的に衝突するバットマンらとは異質なキャラクターを作品に持ち込めたのは、MCUを経験したガン監督ならではかも。
本作は脱アダルトな印象を与える一方で、移民や国境紛争といった現実社会の深刻な問題をモチーフに扱っている。重くなりすぎないためにもコメディー・リリーフの存在は不可欠だったのだろう。
本作のスーパーマンは登場するなり強敵に敗北するし、ほかのスーパーヒーローからは新米扱いされて茶化される始末。そして自らの存在意義や目的に対して普通の若者のように傷付き悩む。
彼の地球での両親ケント夫妻も見映えする名優を起用したザック・スナイダー版とは異なり、見た目は田舎のオッチャンとオバチャン。製作側がクラークを「チョーズン・ワン」として(少なくとも現時点で)描こうとしていないことは明らか。
本作はまだ未熟な「スーパーヒーロー3年生」の成長過程を見せているのだろう。
ライバルのスーパーマンを国家の敵として陥れ一国の支配をも目論んでいたレックス・ルーサーは、最後はクリプトにケチョンケチョンにされ、ルーサーならぬLOSER(負け犬)に。政府要人にも顔が利くおのれの権力が超バカ犬の「犬力」にも及ばないことを思い知らされ、フィジカルもメンタルも傷付けられて泣きべそをかく。
彼もまた、ヴィランとしてはまだまだ未熟な存在だった。
スーパーマンに「癒されますから」と言って序盤ではクリプトン星の両親のエラー映像を見せていた要塞のロボット4号も、ラストでは同じことを言いながら地球での両親との楽しい思い出を映す。
本作は主人公を含む登場人物の成長譚のスタートを飾る、いわば『スーパーマン・ビギニング』なのだと思う。
Z・スナイダー版には登場しなかったホークガールやグリーンランタンを活躍させた本作。今はジャスティス・ギャングを名乗っているが、シリーズ化でバットマンらメジャーなヒーローも召集してジャスティス・リーグに昇格するのか、それともマイナーリーグに終わってしまうのか、今後の展開に注目。
個人的には、劇場公開で3回観て結局ソフトも買った『ザ・フラッシュ』(2023)の世界観が継続されないのは、正直言って残念。せめて黒髪ショートヘアのスーパーガールの新スタイルだけでも引き継いで欲しかった。