劇場公開日 2025年7月11日

「弱さを持ったヒーロー」スーパーマン ありのさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 弱さを持ったヒーロー

2025年7月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

興奮

驚く

 これまでに何度もリブートされてきた人気タイトルだが、今回は「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズ等を手掛けたジェームズ・ガンが製作、監督、脚本を務めているということで、今までにない新鮮さを感じた。

 最も驚かされたのは始まり方である。スーパーマンの出自をすっ飛ばして、いきなり戦いの渦中から入るという異例のオープニング。リチャード・ドナー版もザック・スナイダー版も丁寧に描写していた所を完全に端折ってしまうという大胆なアプローチに意表を突かれてしまった。スーパーマンのバックストーリーは今さら語るまでもないということなのだろう。”荒業”とも言える大胆な手法であるが、開幕から一気にドラマに没入できた。

 もう一つ、本作はかなりユーモラスなトーンが横溢する。いかにもガン監督らしいといった所だが、これまでのDC映画のカラーである暗く鬱屈したイメージを刷新。とにかく明快、快活、親しみが持てるような作品にしようという狙いが感じられた。
 例えば、犬のスーパーワン”クリプト”の愛らしさは特筆すべきで、単なるマスコットに留まらず、スーパーマンを助ける大活躍を見せながら要所で良い働きを見せている。
 ちなみに、ガン監督のDC作品1作目「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」では持ち前のブラックユーモアが炸裂していたが、ここではそれも完全に封印されている。今回は誰でも観れるG指定作品となっている。

 そして、ここがこれまでのスーパーマンと最も違う所だと思うのだが、決して無茶苦茶強いというわけではない。何なら初っ端から傷だらけの姿で登場してくる。その後も、強敵エンジニアやウルトラマンにボコボコにされ、無敵のスーパーヒーローという従来のイメージとは真逆の”弱さ”を持ったヒーローとして描かれているのだ。その”弱さ”は心の弱さであり、人間的な”弱さ”とも言える。だからこそ、観ている方としても彼を応援したくなるし、クライマックスの戦闘シーンはよりエモーショナルに響いてくる。
 このあたりもガン監督らしいところである。マイナーヒーローの愚連隊”ガーディアンズ”を共感できるヒーローに仕立て上げた手腕が、ここでも見事に発揮されていると思った。

 一方で、SNSの危険性、世界で今まさに起こっている紛争に対する批判といったメッセージも要所で感じられた。ガン監督はかつてSNSの発言でクビになりかけた過去があり、個人的にも色々と思う所があったのだろう。現代社会をチクリと刺す風刺性は作品の印象度を強くしている。

 このように今回の「スーパーマン」は従来の同タイトル作品との差別化が色々と試行されており、個人的には大変楽しく観ることが出来た。

 尚、DCスタジオ側は本作を起点に新たなユニバース化を計画しているということである。おそらくはその流れなのかもしれないが、スーパーマン以外にも複数のスーパーヒーローが登場してくる。しかし、原作を知らない自分からすれば、馴染みがないせいで少し微妙であった。この辺りは続編やスピンオフに繋がる伏線として今後に期待したい。

ありの
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