「ガザ侵攻、そして世界の分断にはっきりとNOを突き立てたジェームズ・ガンの新たな傑作!」スーパーマン 横浜太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
ガザ侵攻、そして世界の分断にはっきりとNOを突き立てたジェームズ・ガンの新たな傑作!
ジェームズ・ガンがやるべきこととやりたいことを全て詰め込んだ大名作。
まずキャスティングが素晴らしい!
クラークとロイスはもちろんだが、個人的にはガイ・ガードナーとホークガール、そしてクラークの養父、ジョナサン・ケントの俳優さんがお見事!
スナイダー版の時はケビン・コスナーが演じており、こちらもこちらで良かったが、今回はもっと地に足がついた、どこにでもいそうな田舎のおじいさんが世界的なスーパーヒーローを優しくいたわり、時として人生の指針を示すシーンにただただ号泣。
(疲れ切って眠るクラークの頭に、夫妻がそっと手を添える、あの何気ない1シーンだけで、どれほどクラークが愛されて育ったのかが伝わってくる!!)
また、カル・エルの実の両親が、本当は地球侵略も視野に彼を送り込んでいた……という設定は、ドラマ『ピースメーカー』にあった“毒親からの解放”というテーマが通底しているように感じられた。
一方、作品全体の雰囲気はとにかく明るく、そして希望に満ちたものだったことも特筆したい。
クラークの超人なんだけど、どこかぬぼっとして天然なキャラクターや、切れ者で超敏腕だけど、人に対して切り込みすぎて人と深くつながれない……と悩むロイス、なぜかやたらとモテるジミー……などなど、1作できっちり愛着を抱かせてくれる魅力的なキャラクターばかり。
(ジミーは、ともすればクソ野郎になってもおかしくないところ、彼の時折見せる複雑そうな表情が、素のいいやつ感を醸し出していた)
予告編を見た限りでは、ちょっとキャラクターを出し過ぎじゃないか? 混乱するのでは? と心配だったが、スーパーマン、ジャスティス・ギャング、レックス・ルーサー一味の立ち位置がしっかり色分けされていて、見やすかったのも良かった。
ロイスを単にスーパーマンに助けられるだけのヒロイン、として描かなかったのはもちろん、レックスの恋人役であるイブを、ただ自撮りしまくっているだけの能天気な女子と見せかけて、彼女は彼女でしっかりとした知性とタフさをもって戦っていたという設定にした点も本当に素晴らしかった。
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーにおけるガモーラやネビュラの扱いを見てもそうだが、ジェームズ・ガンのキャラクターへの愛情は深く、熱い。
スーパーマンのクローンが簡単に作れるなら、何体も作れば良かったんじゃ? とも思ったが、完璧には再現できていなかったところを見ると、実はかなり試行錯誤してウルトラマンを作ったのかな。そして、もしも本当に簡単に作れたとしても、エイリアンを危険視するレックスが必要以上にスーパーマンを増やそうとは考えなかっただろう。
印象的なシーンも数多かったが、スーパーマンの依頼で紛争地帯にあらわれたガイ・ガードナーが、まるでハエを手ではらうような仕草とともに戦車を蹴散らすシーンは痛快。地面から伸びる何本もの緑の腕の中に、はっきりと中指を立てた手が混じっていたのは、明らかに現状行われているガザやウクライナなど、強者が暴力で弱者をしいたげようとすることへの批判だろう。
(全編を通して、スーパーマンを地球への移民として描いていたのも印象的だったし、現実のクソ野郎を映画でぶちのめすという構図には、タランティーノっぽさも感じた)
現実の世界に広がる分断を、本当に世界が引き裂かれているという展開で描いているのも大胆で良かった。
(あんなに簡単に直るものなの? という点は引っかからなくもなかったが、エンドクレジット後の映像でネタにしていたのは笑えた)
どうせ殺せないだろう、と高を括るボラビアの大統領を、ホークガールがさくっと殺してくれたのも良かった。
(スーパーマンにはできないことなので、この辺りもジャスティス・ギャングとの色分けが機能した点だろう)
また、ファンにはうれしい過去作へのオマージュもいくつかあり、スーパーマンとウルトラマンの戦闘を監視するドローンを、次々とクリプトが壊していくシーン。モニターがつぎつぎとシャットダウンしていく様は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーvol.2』の序盤の展開に通じるし、なんといってもスーパーマンがウルトラマンとエンジニアと戦いながら大気圏付近まで上昇していく場面は、MCUの記念すべき第1作『アイアンマン』の終盤を彷彿させた。
思い返してみれば、スーパーヒーローでもなんでもない男の奮闘を描いた名作『スーパー!』、スーパーマンが実は侵略者だったら? という観点で作られた一種のパロディ・ホラー『ブライトバーン』(こちらは製作総指揮として参加)ときて、ついに本家『スーパーマン』を描くにいたったジェームズ・ガン。
本作は、同氏の圧倒的で、そしてちょっぴりいびつでユーモアにあふれた才能はもちろん、すべてのヒーローの原点であるスーパーマンへの思い入れを感じられる作品に仕上がっていた。
過去作を知らなくても十分楽しめるのはもちろん、ロイスとのラブコメ要素もあり、カップルで行くデートムービーとしてもオススメ。
本作の製作においては、プレッシャーも非常に大きかっただろうと思われるが、それをはねのけてしっかりとエンタメ作品に仕上げてくれたことに心から感謝したい!!
あ、あと、お馴染みのスーパーマンのテーマがしっかり使われていたのも最高!!!