劇場公開日 2025年6月13日

「コロナ禍初期の状況を事実に即して描いた劇映画としての意義は確かに大きいが、描写や作劇のあり方については手放しでの賞賛をためらってしまう一作」フロントライン yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 コロナ禍初期の状況を事実に即して描いた劇映画としての意義は確かに大きいが、描写や作劇のあり方については手放しでの賞賛をためらってしまう一作

2025年7月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

2020年3月に起きた、豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号での新型コロナウイルス感染者の発生と、乗員・乗客の長期間の船内待機という前代未聞の事態は、新型コロナウイルスに対する不安も相まって、当時日本中の耳目を引きました。

事態の性質上、ほとんどの国民は船内で何が起きたのか、政府や医療関係者がどう対処したのか、断片的な情報しか得ることができない状況でしたが、本作の公開によって、ある程度船内の状況や医療関係者、厚労省の動きが理解できるようになりました。

もちろん劇映画としてのある程度の脚色、事実改変も加わってはいますが、それでも本作の意義は非常に大きいと思いました。災害パニック映画として緊迫感を煽るような演出は抑制して、むしろある種の「間」が感じ取れもするような作劇であることに加え、重症者の緊急搬送の場面以外は、病床をどう確保するか、という重要だが地味な業務に重点を置いた展開であるにも関わらず、最後まで緊張感を維持した作劇の巧みさを実感しました。

一方で、報道機関の煽情的な側面を、(その描き方がある程度的を得ていたにしても)過度に強調したり、ある感染症専門医の告発動画にまつわる騒動を、前後の文脈を切り落として描写するなど、主役であるDMATの物語上の「敵役」的な存在に対する一面的かつ過度に単純化した描き方が気になりました。

さらに、その告発動画に対してSNS上で反論した記事については、実際の書き手である医師に対して何の事前確認もせず引用したとのこと(エンドクレジットで引用元を明記してはいた)。こういった側面を知ってしまうと、作中でさんざん「切り取り」、「一方的で煽情的」と報道機関を批判しておいて、作り手側もこれかよ、と妙に醒めてしまうのでした。

yui