劇場公開日 2025年6月13日

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「テーマは「怒り」か。衝撃作というより怪作。初の星5。」フロントライン 九段等持さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 テーマは「怒り」か。衝撃作というより怪作。初の星5。

2025年7月11日
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鑑賞方法:映画館

知的

難しい

斬新

近年、ここまで骨太な映画を見たことがありません。
日本におけるコロナは事実上この船から始まったわけで、日常を取り戻したといってもいいこのタイミングで本作が投げかける問いは、非常に重要であると感じます。

製作陣の覚悟が見えるのが、何よりそのコンセプト。
船名である「ダイヤモンドプリンセス」に代表されるように、事実に基づいて、個人名など機微に触れる部分や象徴的に描いた社名(「中央テレビ」)等以外は基本実名で登場させるあたり、生半可な製作ではないことが実感できます。

その上でさらに凄いのが人々への踏み込み。
登場人物のセリフや映像描写を通し、メインからサブまで、権力の有無に関わらず、各々の立場と行動に次々と疑問を投げかけ、時に明確に否定します。
人権やコンプライアンスが声高に叫ばれる昨今、自己批判を含めここまでやれるのかと驚かされました。

いずれもその背景として、未知のウイルスに対してだけでなく、国の制度や各種団体のありように加え、世の中を支配する空気に対しての行き場のない「怒り」を感じさせるとともに、この事案に本気で向き合っているからこその描写として圧倒されました。

一部では「衝撃作」と評価されているようですが、個人的に「怪作」と言っても過言ではないと思います。

映画としてはDMAT側の観点で描いているため、見方によっては一面的に見えるかもしれません。
例えば船が横浜に入港するまでの経緯や一旦沖に出ることに関しても様々な闘いや葛藤があったことでしょう。
特に後者は作中「水が足りない」「給排水のため」で片付けられ、患者搬送の時間的制約としてのみ描かれていますが、船が何を排水するのかを考えれば、単純な水の入れ替え以上に、それ自体もいかに大変な話であったかがわかるはずです。

それでも、本事案を医療対応としての視点から見る事実として一見の価値ありで、ここからコロナに巻き込まれていった日々を想像しつつ「あの頃は大変だったね」ではなく、次に備える意味で何が必要なのかを考えさせられる映画でした。

あの日々に少しでも思いがある方は是非早期に鑑賞されることをお勧めします。

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九段等持
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