「この世界は誰かの献身の上で成り立っている」フロントライン Tonさんの映画レビュー(感想・評価)
この世界は誰かの献身の上で成り立っている
まずドキュメンタリーと言うものはなかなかに難しく、それが映画となると尚更だ。現実を元にしたフィクションと言われた方が気が楽だし、映画としては受け入れやすい。民間のメディア作品は一定の収益を求められるし、映画である以上、映画である事を多くの場合は求められる。娯楽や感情に刺激を与えてくれる芸術か物語か?現実の記録となると、この複雑で多面的に移り変わりゆく世界を正しく捉える事ができるのだろうか?ドキュメンタリー映画と聞くと、少しそう構えてしまう。今回はコロナ初期に、乗客約3700人が隔離されたダイヤモンド・プリンセス号における、政府と医療従事者、船のクルー側の観点から描いた作品だ。
物語は有事の際の仕事として行政の箇所は淡々と、そして時に仕事の上での人道と現実のぶつかり合いが起きて進んでいく。そこはリアリティが高いし、実際の現場でもそうなるだろうと言った内容だ。役人の無茶も現実にあり得そうな範囲の勝負だし、病院の調整も現実に起き得そうな議論だ。なので、そこまで劇的なイベントはなく、圧倒的なヒーローもいない。ただ映画的には目立たなくても、現実では大半が頭を抱える問題であり、向き合っているそれぞれが名もなきヒーローであり、主人公だ。
風評被害を恐れて、感染者を受け入れたくないと言う病院側。コロナに関わった医療従事者に子供を触れさせたくない親達。その気持ちは分かるが、今回はその被害を受けた行政や医療従事者側の苦しさや辛さを描いている。特に、DMATの隊員である池松壮亮が吐露する家族への心配や不安のシーンには心を打たれた。「僕の家族、隊員の家族のことは、誰が考えてくれるんですか?」子供を持つ親なら悔しくて泣きたくなる、自分は誰のために頑張ってるんだ?と叫びたくなるその状況。DMATはボランティアで成り立っていると映画では説明されていた。ボランティアで頑張っている人達が、悪気はないにしても迫害されてしまう世界。簡単な事ではないが、我々は誰かの犠牲や献身の上で、この世界が成り立っている事を忘れてはいけないと改めて思った。そして、彼のあの話し方は変わらずしっかりとした重みを持って、メッセージを腹の底に届けてくれる。小栗旬が病院内での議論で、「こんな非常時に対応するための医者だろう!」と言う言葉は、現実と、本来のその職業の役割とのぶつかり合いで、白熱した仕事の場で見られる情景だった。仕事の種類が違っても起きうる事だ。胸が苦しくなった。とは言え、普段は利益や利害で動いていても、ぎりぎりの所で残るのは自分の仕事への矜持ではなかろうかとは思うのです。最後の下船者は船長だった、この一文にも彼の仕事の矜持を感じ、皆がプロフェッショナルとして最善を尽くしたんだと思った。
一方で、乗客側の目線からすると、必ずしも十分と感じられる対応でなかった所があったのも事実だろう。ダイヤモンドプリンセスの中での対応に不満を挙げている人達も複数いる。常に満点の対応なんて難しい。現場は現場で最善を尽くすしかない。そして、それでも全てがハッピーエンドにはならないのがこの世界だ。ただ、このダイヤモンドプリンセスでの経験が、その後のコロナ対応に大いに役に立ったと言う事には当事者ではないが、当時の論調を考えると救われた気がした。
自分が好む映画的なイベントはあまりなかったが、俳優陣達はしっかりしていて、安心して観ていられたし、プロデューサーの増本さんが相当に取材を重ねた事が伝わってくる。結城役の小栗旬と仙道役の窪塚洋介は逆の配役の方もしっくりくると思ったけど、座長は小栗旬の方が良いんだろうから、そうするとこの配役になるのかと思った。何でもないシーンで泣いている場内の観客の人達は被害者か、関係者か、同じような状況にいた人達なのか。盛り上がるシーンじゃない所での、その人達の嗚咽がコロナと言う災害の苦しさや辛さを表しているように感じて、胸が苦しくなった。毎日ニュースで流れていた出来事や、周りが苦しんでいた状況を思い出す。時間が経って、コロナとは何だったんだろうか?と思う事もある中、忘れてはいけない事実を再認識させてくれた良い作品でした。
Tonさま
コメントありがとうございます😙
今年は邦画大豊作でスクリーン争奪戦なので、『愚か者の身分』は4週目から上映回数が減ってしまいました。
とにかくネタバレを踏まないうちに、でも劇中の何気ない伏線を見落とさないように、観に行ってください。
映画賞レースが始まり、今週は報知映画賞と日刊スポーツ映画賞のノミネートが発表になりました。
『国宝』『宝島』『爆弾』と予想通りのタイトルが並ぶ中、『愚か者』は作品賞・監督賞・主演男優賞・助演男優賞・新人賞、すべてノミネートされました。
1年前の『東京リベンジャーズ』『夜明けのすべて』『侍タイムスリッパー』『ぼくが生きてる、ふたつの世界』は、今より自由に素直に楽しんで書いていたので、またあのレビュースタイルに戻れたらいいなと思っています😗
※Tonさんにもう一度読んでください、という意味ではなかったので、ごめんなさい&ありがとうございます。
ひなさん、ご紹介有難うございます。その映画は、映画館の宣伝で少し気になっていました。何とか観たいと思います。
レビュー、確かに昔と今で少し趣きが違う感じはしますね。両方良いと思いますが。よく読ませてください☺️
Tonさま
1週間くらい前ですが、『爆弾』に共感ありがとうございます🙂
コメントするとレビューを急かしてしまうのでは、と思って遠慮していました。
実は『愚か者の身分』が『爆弾』以上の作品でした。
レビューにも「今年1番」と書いている方が結構いるので、ノーマークでしたらオススメです。
私のレビューはネタバレしてないので、時間があれば読んでください。
ちょうど1年前の12月に、このサイトのレビューを書き始めました。
映画館で鑑賞してから数ヶ月経った作品を5本投稿したのですが、『夜明けのすべて』を含めて、1年前の方が今より良いレビューを書いていてちょっと悲しいです🤭
ひなさん、ありがとうございます。ようやく今日のレイトショーで鑑賞できました。松村くんのプラネタリウムのシーンは、夜明けのすべてを思い出して、嬉しさで鳥肌が立ちました^^。レビュー、何とか合間を見て、あげようと思います!
Tonさま
『秒速5センチメートル』に共感、ありがとうございます🙂
私も仕事や家族の事情で、映画を観に行かれない時期がありました。
レビューをアップされるまで、コメントはこちらに続けて残しておきます。
実写版の原作は、アニメ版と新海誠監督自身によるノベライズ版の小説、2つの作品とのことです。
新海誠監督が実写版の制作に感謝していること、実写版映画を観て泣いたこと…ノベライズ版を読んで理由が分かりました。
レビューにも書きましたが、『夜明けのすべて』『ファーストキス』『秒速5センチメートル』、3つの映画の不思議な繋がりが発見できてうれしかったです🤭
Tonさま🎋🌸
実写『秒速5センチメートル』、劇中歌に「One more time, One more chance」がまた使われることが、七夕の今朝発表されました🫢
映画.comニュースを検索したら、YouTubeでこの曲を使った予告編も公開されているのを見つけて、うれしいのに泣いてしまいました🥲
おおー、秒速5センチメートルを実写化する話はどこかで聞いたのですが、松村北斗くんだったとは…。それは観ないといけないですね!オリジナルは目黒シネマでだいぶ昔に観ました。あの切なさが懐かしいです。教えてくれて有難うございます!☺️
Tonさま
今年は「映画館で映画を観てきました!」感の作品が多い気がする中、もう一つ静かな注目作のオススメです😙
実写版『秒速5センチメートル』が、1年前に松村北斗さん単独主演で映画化が決定、5月にティザービジュアルが発表され10月10日公開になりました🥳
フジテレビがCM枠で映画のTVスポットをバンバン流してくれるおかげで、松村北斗さんの映画の台詞の声が流れる度に、ハッとして振り向いています🤭
ひなさん、コメント有難うございます。国宝は是非観ようと思っています。F1も観たいと思っているのですが、先にパンフレットを買っておこうと思ったら、先週末時点で家の近くの映画館では既に売り切れでした…><。教皇選挙は以前に観ていて、最後の展開がカトリック観点からすると衝撃で、新しい時代への問題提起だなと思い、落ち着いたらレビューを書こうと思っている所でした。お薦め、有難うございます☺️
Tonさま
『国宝』と『教皇選挙』に共感ありがとうございます🙂
『国宝』のレビューは映画と同じく長いのに今一つ分かりにくくて、何度も追記して余計納得できない沼にハマっています🧐
『フロントライン』のレビューは産みの苦しみで書き上げていないので、アップできたらまたコメントさせてください🤔
『F1』はこのサイトで評判が良い割りに上映回数が少なくて迷っていますが…
『国宝』は満席続きの映画館が空いてから、『教皇選挙』は間に合うようでしたら映画館で、オススメです🫡

