「最前線での人の道、医は仁術」フロントライン しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
最前線での人の道、医は仁術
通常スクリーンで鑑賞。
ノベライズは未読。
DMATのメンバー、ダイヤモンド・プリンセス号のクルー、そしてマスコミ。それぞれのパートの描き方が濃密だった。1本にまとめず、3作に分けても良かったのではないかと思えたほどだ。
実話に基づいているからこその重みが、ずっしりとのしかかって来る。謂れのない差別や誹謗中傷に曝されながらも、未知の脅威の最前線で戦った人々に頭が下がりっぱなしの2時間だった。
本来DMATは、ウイルス災害に対応する組織ではなかったことを今回初めて知った。では、尚更尊いことではないかと感じた。医療従事者だけではなく、クルーズ船のクルーも誰かがやらねばならないことだからと各自の役目を全うしていた。自分たちの成したことを、まるで大したことではないかのように「仕事」をしただけだと言えるのもすごい。
驚いたのは、立松のような優秀な官僚が現場をバックアップしてくれていた、と云う点だ(最初に登場した印象では、この人の言動が現場を混乱させるのかもと思ってしまった)。
マニュアルの無い未曾有の事態に直面した時に、右往左往してしまうのが官僚の勝手なイメージなのだが、現場の声を受け柔軟に対応してくれる姿は理想的な官僚像を体現していた。
それぞれの場所で、容易には想像し得ない苦悩と葛藤があったと思う。コロナ患者を受け入れたくない、受け入れるなら病院を辞めると言った医療従事者を真っ向から批判する勇気は無い。
だが、結城の放った「そんなことを言うなら金輪際医療から去るべきだ」と云う意味合いの発言には納得がいく。仙道の「こんな時のために俺たちは医者になったんじゃないのか」にも胸を打たれた。
医は仁術なり。医師の仕事とは、人命を救う博愛の道であるとする言葉である。コロナ禍の真っ只中では、その使命感に縋るしかない状況だったわけだが、彼らも医師である以前に人間なのだと云うことを痛感し、改めて感謝の念が湧いた。
「フクシマフィフティ」を思い出す。あの時、現場ではいったい何が起きていたのかを、エンターテインメントと云う形ではあれ、知ることが出来て本当に良かったと思う。感染の恐怖と戦い、職務を果たそうと奮闘した人々に心からの敬意を⋯
内実を知らず、物事を断片的にしか捉えないで好き勝手なことを言った当時のマスコミやネット民の行為は許し難い。そして、報道やSNSに踊らされていた当時の自分にも腹が立つ。物事は多面的に見ないといけないと云う教訓である。
留意すべきは、当時のマスコミを非難する目的でこの描写を行ったわけではない点だと思う。桜井ユキ演じるテレビ局の記者は、上司の命令と現場の事実の間で葛藤しながら取材していた。つまり彼女も「仕事」をしていたわけだ。患者を愛知へ移送する際、車列を追跡しないと決断した彼女の想いに「マスゴミ」の一言では括れないものを感じた。
コロナ禍を経て、日常とは決して当たり前のものではないことを知った。その日常を守ってくれている人がいることを知った。気づけて良かった。本作はそんな名もなき人々の戦いの記録である。
[鑑賞記録]
2025/06/21:TOHOシネマズ西宮OS
2025/11/16:Amazon Prime Video
*修正(2025/11/16)
共感ありがとうございます!
自分もcovit-19に罹患して強制入院になったのですが、ガッチリ隔離されていたので周りの事が判らなくて、この映画でやっと答え合わせが出来た感じです。もともと子供の頃からケガとか病気で入院が多かったので医療関係者には感謝していましたが、感謝の念がますます強いものになりました。


