「「発信者にとっての事実」には必ず何かしら自分の意見やバイアスがかかっている」フロントライン おけんさんの映画レビュー(感想・評価)
「発信者にとっての事実」には必ず何かしら自分の意見やバイアスがかかっている
エンタメ映像作品というより、教養としての一作。
医療ボランティアであるDMATと患者と船員、現場と会議室、医者と役人、船とメディアなど、さまざまな対立構造が生まれる中で、世間からの厳しいバッシングや、合理性で固められた法律に縛られながらも、未知のウイルスとの“正解のない戦い”が描かれていた。
実話に基づくガチドキュメントだからこそ、余計な脚色や裏切り要素もなく、ストレートに物語を楽しめた。
本来、みんなの共通の敵は”ウイルス”であり、どこにもいないはずの“悪”。しかし、人は窮地に立たされると、思い通りにいかない相手を“悪”としてしまうことがあるのもなのだと改めて感じた。
現場でもSNSでも、解決に向けて必死に動いている人たちに対して怒りや苛立ちがぶつけられる場面が多く描かれており、かなり心苦しいものだった。
あの状況で誰が何をすべきだったのかなんて、誰にもはっきりとはわからなかったはず。
メディアは数字を追い求めて過激化し、さらにSNSの普及によって、個人が情報を精査せずに発信できるようになってしまった現代。
情報があふれすぎている今、どんな情報にも見えていない側面があり、「発信者にとっての事実」には必ず何かしら自分の意見やバイアスがかかっているという認識を持つこと。
それがこの時代における、受け手側としての最低限のリテラシーなのだということが、もっと広まってほしいと思った。
実際、自分が頼まれたら現場へ向かうのか、患者を受け入れてくれと言われたら受け入れるのか。なかなかすぐには頷けない。
平穏な日常が、いかに多くの人間の努力の上に成り立っているのか、身に沁みて感じた。
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