劇場公開日 2025年6月13日

「良心に従って行動した人々」フロントライン toshijpさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 良心に従って行動した人々

2025年6月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

コロナ禍の初期に起きた一大事として記憶に残る、豪華客船
「ダイヤモンド・プリンセス」での集団感染を題材にした映画。

実際の現場は大混乱で解決しなければならない問題が山ほど
あっただろうし関わった人の数は相当数だったに違いないが、
映画ではそれを上手く整理していて、展開が分かりやすかったし
登場人物も絞っているからとっ散らかった印象はなかった。

脚色の妙。取材に基づいた事実を描く部分と役者さんが演じる
ドラマ部分(ある程度のフィクション)との匙加減が絶妙に
良かった。

登場人物の(良い)人間性が現れる場面が随所に盛り込まれ、
当時どういった状況だったかを伝えるだけでなく人間ドラマ
として見応えがあった。

事実を伝える説明的な部分もあるにはあるが、それよりも
登場人物それぞれが”心を持った人間”としての言葉を発していて
響いてくるものを感じた。琴線に触れる言葉がたくさん聞けた。

我々一般人はニュースで見聞きしただけの事柄一つ一つが、
当事者にとってはどれも差し迫った問題だっただろう。

・今までなかった未知のウイルスの脅威
・国内に感染拡大するのを食い止める
・船内の感染者を救う
・入院が必要な患者の搬送先の確保や搬送手順
・船内では自分自身も感染の危機にさらされる
・濃厚接触者の対応
・大切な家族と離れ離れにならなければいけないのか
・異国の地で船内に缶詰め状態になる不安
・言葉の違い
・目の前にいる人を救いたいのに法律や制度が足枷になる

これらの問題に真摯に対応した彼らの行動基準が「いかに
人道的であるか」だった。杓子定規な対応では救える命も
救えない可能性があった。

災害医療専門の医療ボランティア的組織「DMAT」が現場で
対応した訳だが、彼らは決して感染症の専門医たちでは
なかった。それでも誰かがやらなければならない。

良心に従って船内の人々が全員下船できるまで尽力した彼らを
称えたい。

DMAT指揮官・結城英晴を小栗旬、厚生労働省の役人・立松信貴を
松坂桃李、現場で対応にあたるDMAT隊員・真田春人を池松壮亮、
医師・仙道行義を窪塚洋介が演じた。4人の演技が素晴らしかった。

この4人を中心に話が進みつつも様々な人々のドラマが心に残った。

横浜港に着いてもすぐに上陸できなかった乗客たちはお気の毒
だった。そして同様に、乗客へのサービスを継続しなければ
ならないクルーたちにも大変な苦労があったに違いない。

自分もいつ感染するかわからない。でもそんな不安は表に出さず
お客様へのサービスを続けたクルーたち。彼らに精神的に救われた
乗客も多かったはず。

ホスピタリティという言葉があるが語源はホスピタル(病院)と
同じらしい。相手に寄り添って最善を尽くす。医療スタッフと
同様に乗客のケアをしたクルーたちのこともきちんと描かれて
いて良かった。

元ホテルマンの自分としては森七菜が演じたフロントデスク・
クルーがホスピタリティを発揮して問題を解決していく姿に
共感できたし一番印象に残った。

彼女の行動が乗客にも医療スタッフにも良い影響を与えたのは
明確だった。

その他の人物についてもそれぞれの属性にふさわしい言動や
葛藤する様が丁寧に描かれていていずれも印象的だった。

toshijp
かざままさんのコメント
2025年6月27日

コメントありがとうございました。フォローさせていただいてますm(_ _)m
フロントデスククルーのマニュアル通りでない人間味を感じる必死さに感動しました。

かざまま
ファランドルさんのコメント
2025年6月24日

とても良い映画ですが、「国宝」と公開時期が重なってしまったのが残念です。「国宝」にかなりお客と、話題を持っていかれてしまったのでは。勿論「国宝」は素晴らしい映画ですけど。

ファランドル
おつろくさんのコメント
2025年6月24日

共感ありがとうございます!

とにかく色々な意味で「濃い」映画でしたね。事実の正確なトレース、脚本の緻密さ、キャストの真剣さ、映像の繊細さ、どれをとっても同じ作品をもう一度作るエネルギーはないのではないかと感じさせる良作でした。

おつろく