「 目の前の命か国益か 医療従事者の本分」フロントライン レントさんの映画レビュー(感想・評価)
目の前の命か国益か 医療従事者の本分
小栗旬演じる結城とその右腕のような存在の窪塚洋介演じる仙道の関係性が良かった。二人は時には言い合う関係だけどお互いのことをよく理解しあっていて互いをフォーローし合い見事に未知の感染症対策という難題をクリアして患者たち全員を医療機関に送り届けた。
仙道は目の前の患者の命を最優先に考える。しかし官僚の立松は国益のために感染症対策を優先する。どちらも正しいと言え、その立場上考えが異なるのも致し方ない。しかし同じ医師の結城もやはり仙道と同じ考えで、彼は立松に規則に縛られない柔軟な対応を求めた。そんな結城の熱い思いにこたるように立松も協力を惜しまなかった。現場と役所が一体となり、この事態への対応が万全なものとなってゆく。
しかし感染は待ってはくれず次々と感染者が増え続け一刻の猶予もない。そんな中で隊員たちは思いもよらぬ妨害を受ける。
ただでさえ手ごわい未知のウィルスとの戦いに加えて彼らに浴びせられる誹謗中傷。もとはと言えば彼らDMAT隊員たちは災害対応を希望して自ら申請して隊員となった人々。
しかし未知のウィルスへの恐怖が人々を不安に陥れて、不安に駆られた人々は無意識に隊員やその家族に対して心無い言葉をぶつけてしまう。そのために病院からの受け入れ拒否や隊員の補充に支障がきたしてしまう事態に。この時にもご多分に漏れず風評被害が生じていた。
国を揺るがすほどの災害、何が起きているのか正確な情報の発信が報道には求められる。もちろんジャーナリズム精神に基づき正確な情報発信を心がけていても誤報などによる報道被害は起こりうる。ましてや今回のような未知のウィルスによる脅威に対してはいち早く国民に正確な情報を与えてその行動指針につなげられるようにしなければならない。しかし報道はもろ刃の剣でもある、時には不確かな情報を流してより世間を混乱に陥れる可能性もある。今回それが最悪の形で出てしまう。
しかし、もはやこの情報化社会では情報を受け取る側にも節度が求められる。常にその情報を丸々信じるのは危険だということを常に頭の片隅において受け取らなければならない。これは特にネット社会で真偽不明情報が飛び交う今の時代だからこそより受け手側に要求されるものである。
また報道を受け取り、それを自分たちの不安から人命のために身を犠牲にしている隊員や家族に対して差別的な言動を行うことはこのコロナ禍に始まったことではない。3.11でも原発事故に見舞われた被災者への差別的な中傷は絶えなかった。
報道だけではなくこれら被害者や関係者たちへの配慮を欠く言動がまかり通るのはいつの時代も同じだ。
何度災害に見舞われても同じ過ちを人間は繰り返す。人間は簡単には進歩できない。だからこそ結城のモデルとなった阿南医師の言葉がより深く突き刺さる。
主人公結城は、患者受け入れを拒む病院に対して医療に携わる資格はないと発言する、それらを含めて劇中主人公が少々かっこよく描かれすぎではないかと思っていたが、彼のセリフはモデルとなった阿南医師の口から実際に出た言葉だったそうだ。
ウィルスが怖くて受け入れたくないという発言を同じ医療従事者である人間が発したことに対してそんな人間は同じ医療に携わる仲間とは思いたくなかったという。
またやはり劇中の通り隊員やその家族が差別による中傷を受けたという。DMAT隊員の看護師をばい菌呼ばわりしたのが同じ病院の看護師だったらしい。裏を返せばそれほどまでに未知のウィルスに対して人々は脅威に感じていたんだろう。今となってはコロナについてはほとんど知識が蓄えられて人々が恐怖することもなくなったが当時は致し方ない部分はあっただろう。
しかしだからこそ阿南医師は訴える。恐怖や不安は無知からくるものだと。人は恐怖や不安に駆られると愚かな間違いを犯す。
我々医療従事者は感染症について学んできた。たとえ未知のウィルスであろうとも自分たちの蓄積してきた経験や知識でもって理性を保ちそれに見合う行動をしなければならない。一般人が脅威に感じるのは致し方ないとしても。
そのような言葉を述べておられる。しかしこの言葉はやはり医療従事者でなくとも肝に銘じるべき言葉だと思う。
人間社会における差別は常に相手に対する無知や無理解から生じてきた。同じ人間なのに、無知から相手を危険な存在だと警戒して猜疑心を高めてゆく。そして災害が起きた時にはそんな不安や疑心から一気に攻撃的な言動が噴出する。
それは災害などが起きればいつも起きうるもの。今の世界でも自分たちへの生活の不安から他者を蔑み攻撃が加えられる排外主義が蔓延している。
災害時ではない平時であっても我々は普段から互いのことを理解し合い憎しみ合うことを避けるべきだということがこの阿南医師の言葉から感じられる。残念ながらイランとイスラエルは今にも戦争状態に突入しそうではあるが。
本作は未曾有の集団感染を引き起こした豪華客船で人命のために闘ったDMAT隊員、現場で闘う彼らをフォローした役人たち、船内クルー、隊員を支えた家族の姿をそれぞれの立場から満遍なく描いた力作。
また船内外国人クルーに対する差別の問題も取り上げていて今の日本社会における外国人労働者問題への配慮もなされていてとても好感の持てる作品。
こういう史実を基にした作品はとかく虚実をないまぜにして世論誘導に利用される危険をはらんでいる。過去には福島事故を扱った作品のように。しかし本作は現場で当時指揮した阿南医師が監修を務めていて細かなところまでチェックが行き届いており、製作者側の事実をありのままに伝えたいという真摯な態度がその作品から感じられた。
劇中で結城が使用していた聴診器が阿南医師から借り受けたものだと聞いてさらに胸が熱くなった。
こんにちは。
コメント失礼しますm(_ _)m
レントさんのレビューを拝読し、阿南先生、近藤先生のインタビュー記事を探して色々と読みました。
より印象的な作品になりました。
ありがとうございます!
こんにちは👋😃共感有難うございます。又、変わらず、流石のレビューですね。全然関係ありませんが、昨日からの暑さで工場は大変です。これも、コロナとは違う危機だと思っています。昨晩、仕事に嵌まり3時間しか寝てない私、頑張れ👊😆🎵。では。
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