「自分は何もわかっていなかった…」フロントライン おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
自分は何もわかっていなかった…
すでに予告を観ただけで涙が溢れそうになった本作。あの日、あの時、現場で何が起きていたのかを知るために、公開二日目に鑑賞してきました。
ストーリーは、2020年2月、新型コロナウイルス感染者100名以上を含む乗員乗客3700名余りを乗せた豪華客船が横浜港に入港し、専門の対応機関を持たない日本政府は、災害医療専門の医療ボランティア組織・DMATを派遣し、既存の枠組みや法制度、マスコミの偏向報道、ネット上の無責任な言動、世間の誹謗中傷などの障害に屈することなく、医師たちは未知のウイルスを相手に命懸けの治療に挑むというもの。
日本中を混乱に陥れた新型コロナウイルスの始まりの一歩で、あれほど連日のニュースで報道されていたにもかかわらず、自分は何もわかっていなかったのだと思い知らされます。そもそもDMATが対応していたこと、それがボランティア組織であること、その参加医療者を取り巻く状況など、初めて知ることばかりです。
あの時、現場では医師はもちろん、その他の医療スタッフ、船内クルー、乗客、船外では厚労省の役人、医療関係者、その他の関係機関のスタッフなど、実に多くの人たちが事態収拾のために奔走していたことが、ひしひしと伝わってきます。誰もが躊躇する事態に決死の覚悟で挑む姿が、本当に熱いです。船内活動に従事していたかたがたの信念と覚悟、仲間との信頼関係なくして、成し得なかったことだと思います。
特に、結城と仙道の厚い信頼関係に裏打ちされたやり取りには、何度も涙を誘われます。同じ志をもつ者として、言葉に表れない思いまで互いにくみとるような姿が本当に熱いです。タイプは違えど、立松にも揺るぎない信念が感じられ、官僚としての責務を自覚して、結城の思いをブレインとして支える姿がこれまた熱いです。
その一方で、それを視聴率のネタとしか観ていないマスゴミに激しい怒りを覚えます。人の不幸を飯のタネとしか考えていないスタッフばかりだと思いたくありませんが、責任ある立場の人間が襟を正さねば、組織が変わることはないでしょう。近年では、これに拍車をかけ、あるいは上回る勢いで拡散するSNSでの発信も、大きな問題です。無責任に助長したり勝手な憶測で批判したりする発信は、むしろテレビよりもたちが悪いです。
発信者の中には正義感から行っている人もいると思いますが、それでも発信前にちょっと立ち止まって、他者に与える影響を多面的に考えてほしいです。感染への不安と恐怖から、他者に過剰に攻撃的になる心情もわからないではないです。でも、そんな時こそもう一度冷静に情報を見極め、他者への思いやりを忘れずにいたいものです。
そんなことを思いながら、ふと自分に置き換えてみると、仕事上でこれほど心から信頼し合える人は思い浮かばないし、そもそも信頼してもらえる自信もありません。また、ニュースやネット記事を鵜呑みにして一喜一憂している自分の姿も浮かんできます。自分の仕事ぶりを振り返り、他者への接し方を見つめ直す、いい機会になった気がします。世間をどうのこうのと言う前に、まず自分を変えていかねばと深く反省させられます。
主演は小栗旬さんで、患者を救うことだけに全力を注いだ結城を熱演しています。脇を固めるのは、窪塚洋介さん、松坂桃李さん、池松壮亮さん、森七菜さん、桜井ユキさん、美村里江さん、光石研さん、滝藤賢一さんら。中でも、窪塚洋介さんの絶対的な存在感が光ります。
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