劇場公開日 2025年6月13日

「未曾有の事態に立ち向かう人々の姿は見応えがあるが、それを「成功事例」として描いていることには違和感がある」フロントライン tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5未曾有の事態に立ち向かう人々の姿は見応えがあるが、それを「成功事例」として描いていることには違和感がある

2025年6月14日
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自らが未知のウイルスに感染する危険がありながらも、ボランティアとして客船に乗り込んだDMAT隊員達の使命感と心意気に胸が熱くなる。
戦友同士のような信頼で結ばれた小栗旬と窪塚洋介の関係性もさることながら、最初は対立しがちだった小栗旬と松坂桃李が、次第に共闘関係を強め、友情で結ばれていく様子も心に響く。
家族が差別や偏見に晒される理不尽さに苛まれながらも治療に専念する池松壮亮や、無責任な批判を繰り返して国民の不安を煽るマスコミの姿勢に疑問を感じ始める桜井ユキの心情も胸に迫ってくる。
このように、未曾有の事態に立ち向かった人々の葛藤や苦悩が克明に描かれていて、総じて見応えがあるのだが、その一方で、どこか物足りなさを感じてしまうのどうしてだろう?
一つは、本作の見どころが、PCR検査で陰性の乗客を入院中の家族に会わせるために下船させるかどうかとか、外国人クルーを入院させるかどうかとか、マスコミの誹謗中傷に反論するかどうかとか、横浜から愛知県の病院への患者の移送が成功するかどうかとかになっていて、「絵的」に地味な印象になってしまったからに違いない。
題材が題材なだけに、大作らしいスペクタクルな見せ場を作るのは難しかったのだろうが、例えば、主要人物がコロナで命を落とす(美村里江の親子がその役回りなのかとも思ったのだが•••)など、もう少し「死の危険と隣り合わせ」みたいな状況が明確に描かれていたならば、さらに切迫感のあるドラマになったのではないかと思えてならない。
そらから、これが、「成功事例」として描かれているということも、物足りなさのもう一つの理由なのかもしれない。
確かに、前例のない事態において、「人道的な正しさ」を判断基準として行動する小栗旬にしても、「嘘も方便」でお役所仕事を柔軟に処理する松坂桃李にしても、厚労省やマスコミへの対応よりも「患者の命」を第一に考える窪塚洋介にしても、誰もが、あの状況下で最善を尽くしたのは間違いなく、その意味では「ヒーロー」であったことに異存はない。
しかし、前例のない事態だったからこそ、間違いや失敗も数多く生起したはずで、それを無かったことにして、すべてが正しかったかのように描かれていることには違和感を覚えざるを得ない。
別に、後知恵をもって当時の不手際や判断ミスをあげつらい、それを糾弾するべきだと主張するつもりはないのだが、後世に教訓を残すという意味でも、もう少し「失敗に学ぶ」という姿勢があってもよかったのではないかと思えるのである。

tomato
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