劇場公開日 2025年6月13日

「エンタメとしては良作」フロントライン コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0エンタメとしては良作

2025年6月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

エンタメ性と社会風刺を共存させ、当時船内に入って医療を届けようと頑張ったDMATの医師・看護師たちや、厚労省の現場職員、協力を惜しまなかった船内職員たちの視点で、彼らの奮闘を描いたフィクション作品でした。
こういう未曽有の災害の中で「『医療ケアをする人』のケアは誰がするのか」「医療関係者を、世間の差別や偏見からどう守るのか」という課題を突きつけたことは、面白さと同時に社会的意義がこもっていてよかったかなと。
そして、たった5年前なのに、既に風化した過去みたいになっている怖さに気づかされ、悲劇は繰り返さないようにせねば、と思いもしました。

一方、エンタメだからわかりやすくしたいだろうし仕方ないけれども、敵味方構図をシンプルに、かつはっきりドラマにし過ぎかなと。

人道に則り乗客を助けようとしたヒーロー VS 乗客の命は二の次だった無責任な人々

できることを最大限やろうとしたDMAT &厚労省若手職員
VS
①自分たちの立場や命を優先し、船内の人間への対応が後回しだった連中
②事態を煽って面白い見世物にしようとした連中
③炎上自体を娯楽化したり、恐怖から医療従事者を誹謗中傷して遠ざけた連中
というシンプルな対決構図。

主な敵となるのは、マスコミ(主にTV報道)、不確かな情報で攻撃的になる大衆、炎上大好きSNS民、感じの悪い政治家や現場に来ない厚労省の上の方、逃げ出した挙句にあとからいちゃもんをつけた感染症専門家たち(特に動画投稿した某医師)などで、そういった連中への強烈な批判を伴っていました。

DMAT側の描き方はひたすらカッコいい。
予告編では厭な奴っぽかった松坂桃李くんの演じる厚労省役人が、実際はめっちゃいい人に描かれていたのにホッとしました。
小栗旬の存在感は流石でしたが、それを上回る窪塚洋介の怪演に引き込まれました。
そういう、映画を観る観客への感情誘導の仕方は上手いなぁ、と感心しました。
ヒロイズムを強調した、脚本や演出のテクニックの話ですけどね。

一方的な見方で敵と見なした側へ断罪を求めることは、あの時ことさら新型コロナへの対応を批判的に煽っていたマスコミと何が違うんだろうか?とも思いましたし、また、一種のプロパガンダにもなりかねない危険性も感じました。
今後もDMATや医療従事者は危険な現場に行くのが当たり前だ、多少ミスがあっても仕方がないんだ、ボランティア医師たちは犠牲になるかもしれない、みたいな受け取り方に転じても違うかなと。

それに、事実としながらも少し違和感が。
たしか横浜の前に寄港した沖縄で、検疫せずに乗客を下船させ、沖縄に感染を広げた船と国の失敗は割愛され、無かったことになっていたり……
最終的なダイヤモンドプリンセス号の乗客死亡者数が明記されていなかったり……
全乗客の下船前に、飛行機など別ルートですでに日本には新型コロナが入ってきて、徐々に感染が拡大していったことには触れなかったり……
情報に関し、恣意的な取捨選択もあったように思えました。

作劇上の都合で映画向けに時系列や人物の行動などを改変したり、また明らかに危険な場面でマスクをしてないシーンがあったり、エンドロールに注意書きは流れたものの、観た絵の印象だけで考えず、一面的正義に流されないで多角的多面的にとらえるように考える重要性にも気づかされました。
それらに考えを巡らせて事実ベースの創作だと理解したうえで、エンタメとして楽しむ分には、本作は十分に良作だと思いました。

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コージィ日本犬
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