「唯一無二の運命を手繰り寄せるおはなし。」(LOVE SONG) ちなさんの映画レビュー(感想・評価)
唯一無二の運命を手繰り寄せるおはなし。
タイBLは出演者の方の別作品しか視聴したことのないにわかですが、ディティールは省略して感情表現に重きを置くと知り、「舞台みたいだな」と感じていました。特に小劇場ってそんな感じありませんか? 昔ちょこちょこ観劇したり関わったりしていたので、どことなく相似点があるなあと。
(有名な方を起用するようなでっかい劇場の舞台であればディティール拘ったって上演時間がいくら長くたって問題ないんですよ。小劇場は借りられる時間と予算の戦いがあるし、美術だって限界があるし、飽きさせない時間で終わらせないといけない。そうなるとどこかを削る必要がある。脚本演出が本当に伝えたいところ、見せたいところだけ見せないといけない。とかね。)
まあタイの作品が「そう」なのは予算が〜時間が〜というより文化だと思うので、良し悪しは人によりけりなんだろうなと感じます。日本の作品は物凄く詳細まで見せる気がするので、慣れない、分からない、という意見も分かります。ただ手前味噌ですが、私は苦にならず脳内補完して鑑賞できました。お察しくださいってことですね、ありがたく妄想させていただきます、ごちそうさまです。
それよりもですよ。まさか上映前の自分の妄想が当たってしまって、心にグサグサ突き刺さって泣いちゃいました。
「ソウタの母親は登場する、更にソウタとカイは幼馴染、なのにカイの親は出ない? カイは大学を中退している? ……カイ、天涯孤独なのでは……? 中退しても誰にも咎められない環境の人間で、根無し草で、フラフラ儚い人なのでは? というか、中退してソウタの前から居なくなったのって、ソウタの親から、関係を勘ぐられて否定されたのでは……?」
天涯孤独とまではいかないようですけどね、まさかね、ドンピシャで合ってるとは思いませんでしたよ。いやまあ、皆さん妄想していたとは思いますが……でも以前試聴したタイBLドラマは、同性愛をだーーーれも気にしない、むしろ応援しているような作品だったので、まさか「ソウタは一人っ子だからやめてほしい」が出てくるとは思わないじゃないですか……。私はこの「長兄は跡取りなので家を継いで子をなすべき」観は日本的な考えだと思っていたので、まさかタイの監督の作品で出てくるとは思わず……。
(視聴後に少しだけ調べたんですけど、タイでもまだまだ同様の考えは根深いらしいですね。タイでさえそうなのだから、いわんや日本をや)
でもソウタの母もなーんも悪くないんですよ。だってそれは考え方の1つだから。申し訳なさそうな筒井さんの演技が本当によくって……バイクを止めてから過去回想、そしてカイの慟哭の一連のシーンが一番心に刺さりました。一人にならないと、雨で声を消してくれないと慟哭できないカイ、ソウタの母の拒絶を感じてしまい一人傘をさすしかないカイ。向井康二さんの演技が見事です。子役(?)の方も、向井康二さんの演じ方にかなり寄せていませんでしたか? まったく違和感なく受け入れられて感動しました。
価値観に打ちひしがれるカイに限らず、監督が親日家であるというのがよく分かる作品でした。日本の解像度が高い。日本のシーンの邦画感がすさまじい。この「邦画感」、全然うまく表現できないんですけど……緩やかな時間の流れ、どことなくノスタルジックで、優しい筈なのに真綿で首を絞められるような息苦しさがある。個人的には「外国の監督が作ったコッテコテの日本」も好きなのですが、この作品には合わないので良かった。
銭湯のあとのカイ・ソウタ・ユキで並ぶところもいいですよね。男2女1、大学とかでよく見かける謎構成(逆もあるけど)。「どういう繋がりなの……どことどこが関係しているの……?」とつい勘ぐってしまうような。同性愛がまだ「リアルに」浸透していない日本ではカイとユキが恋人、ソウタがその友人と思われそうで、でも視聴者は明らかにカイがユキに一切の興味がないのが分かる、のに、ソウタは1人で「俺はカイとユキにくっついているだけ」「俺が歌を聴くのはユキの次で良い」と思っている。もどかしすぎんか?
私はさだまさしさんの小説が好きなのですが、どことなくさださんの作品に通ずるものを感じています。劇的な事件や起承転結は少なくて、過去に傷ついた人が、それをやんわりと飲み込みながら生きていて。登場人物は皆優しくて、主人公達を大きな愛で包んでいる。誰も悪くなくて、ただ、愛を持って生きている。あくまで私の、さだまさしさん作品への印象です。きっとCHAMP監督も優しい方なんだろうな。
なのに。キャラクターはまるで「ハニーレモンソーダ」で笑っちゃいました。カイだけに。家庭環境に難を抱え、深い愛情と優しさを持っているのにうまく言葉にできなくてクールでミステリアスで何考えているか分からないと思われがちなカイ。……界くんじゃん……。The日本の家庭環境で優しく育てられてまっすぐと愛を伝えるソウタ。……羽花ちゃんじゃん……。
そして私は「(LOVE SONG)」を、「タイBL版さだまさし風『ハニーレモンソーダ』」だと位置づけました。
皆さん、何を言っているか分からないと思いますが、一度そういう感じで見てみてください。どういう感じやねん。
【追記】2回目視聴できたので。
・ラストシーンはどういう意味なんだと考察が盛んに行われていましたが、先のライブシーンにてアンコールで戻ってきたカイ、はなっからソウタの方を見ていましたね。更にライブシーンでも、ちゃんと微笑んでいました。個人的にあのラストシーンは、「カイは他の誰でもなくソウタだけを見ていた」「最初からソウタのためだけに歌うため、アンコールに戻ってきた」ってことなんじゃないかと思っています。愛が深ぇ〜
・コメンタリーは視聴できていなくて、少しだけネタバレを拝読したため、以下の感想はてんで間違ってますが、2回目視聴女の感想として載せておきます↓
ソウタの「俺達親友だろ」は「恋人じゃなくていいから側にいて」ってことで、カイは「親友がキスするかよ」で「親友でいいから側にいる」をも拒絶したということになるのかなと。だからソウタはブチギレたんだなあと感じました。あそこのキレ具合が急だと言われていましたが、「また何処かに行っちゃうんだろ?」から諦念と未練丸出しだったので、それを肯定されて「こっちだって分かってんだよ改めて肯定すんな!!」とブチギレる気持ちは、個人的にはすごく分かるので急と思いませんでした。つまり私も急にキレる女ということです。
・ソウタ母の「今日はもう帰ってくれる?」、カイの「“普通の”家庭に入れない異物」感があってしんどかったです。
・想いが通じ合った橋のシーンが良いのって、カイとソウタが「親友であり恋人」「唯一無二の運命」にいきついたからなんだなと感じました。決してベタベタの恋人になるのではなく、親友としての側面もある。ハグした後にキスせず普通に会話し始めて……そこがめちゃくちゃ良かったです。だって幼馴染でずっと友達だったんだもん。そう簡単にベタベタカップルにはならないですよね、同性だし。でもこの人じゃないと駄目で、本当に運命で。その絶妙なバランスがカイとソウタの奇跡だなと思いました。向井康二さんと森崎ウィンさん、体格も似ているので、対等感があってすごく良い。
・上記に付随して。キャストさん皆さん良かったのですが、向井康二さん森崎ウィンさんがとにかくよかった。特に2人だけでいるシーンは自然で、演じているというよりソウタとカイが感情のキャッチボールをしているんだなと感じられて。ソウタはともすればぶりっこになってしまいそうなのですが、森崎さんの演技はさすがです。小劇場などでも下積みが長い方ですものね……。向井康二さんはファンの方々がおっしゃる通り、視線と所作が美しい。なんだか台詞がいらない気がする。視線と体の動きだけで演じてみてほしい。とても酷いことを言うようですが、これからも何かしらにやんわりと苦しみを抱く役をやってください。
ところでカイって本当に攻なんですか?????本当に??????
【更に追記】
すっかりハマってんじゃねえかということで。年に1回、子供とプリキュア映画を観に行く程度の私が2回も観に行った映画(LOVE SONG)。「ファン向け映画だろう」という感想をチラホラお見受けして、「ええ、いや……むしろ究極に監督のエゴの塊映画では……?」と違和感を抱いたので思い返してみました。
そもそも「ファン映画」っていうのが映画大初心者には分からないので、そこに対する違和感は割愛します。私が話したいのは「エゴの塊」の方なので。
CHAMP監督の作品をご覧になった方の多くが「映像美」と評している通り、恐らく明確に見せたい「絵」がある方なんだろうなと感じています。詩的でロマンチスト、見せたい絵と色があって、質感があって、音がある方。その到達点に向かってストーリーを構築しているのかな、と後から思い返しました。ストーリーやそれに対する感想は強要してこない、感じ方は相手に委ねている優しさを映画全体から感じられます。
やわらかい散文詩のような、ゆっくりとした時間を持っている方。
だけど今って、タイパの時代じゃないですか。動画再生は2倍速、分かりやすさ重視。正直、ストーリーやエンタメも飽和しているから、あっと驚くような展開がないとバズりにくい。
(LOVE SONG)は対極をゆく作品だと思いませんか?
単なるファン向け映画でいいなら、もっと分かりやすく盛り上がる話を書けばいい。人気な俳優さんやアイドルさんを起用しているのだから、分かりやすい話を書けばもっとわかりやすくヒットする筈。予告編だってなんだって、もっとキスシーンや絡みを押し出して過激にしてしまえばいい。
だけど本作品はそうしなかった。徹頭徹尾、皆さんのおっしゃる「映像美」にこだわって、時代を逆行するようなつくりにした。これってつまり、全員が監督のやりたいことに賛同して、尊重した結果なんじゃないかなあと思うのです。
だから私は本作品を、「監督のエゴの塊映画」と思いました。勿論良い意味でね。
多分、今後もわかりやすくバズることはないんじゃないかな、でもそれでも良い気がする、好きな人には滅茶苦茶に刺さる、賛否両論スルメ映画。
というのが私の大々的な妄想になります。完全に自己体験を投影してしまっているので、全く異なっていたら笑ってくださいね、CHAMP監督。
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