「「タイの作品」として観ると世界観に入りやすい」(LOVE SONG) るんさんの映画レビュー(感想・評価)
「タイの作品」として観ると世界観に入りやすい
本作の監督・脚本を務めたCHAMP氏は、世界的大ヒットとなったタイBLドラマ「2gether」で知られるタイの監督。
今作もその独特の世界観を履修しており、タイの映像作品に触れたことのない人が観るとその展開に驚くかもしれない。
まず大前提として、タイの映像作品でよく見られる「行間が飛ぶ」「この『間』は想像にお任せ」ということがあるのを覚えていてほしい。
例えば、さっき仕事のシーンだったのにいきなりご飯シーンになる、話が飛ぶ、いつの間にか登場人物同士が仲良くなっていたり恋心を抱いている、妄想シーンがよく出てくる、かと思えばいきなり現実の過去のシーンに飛ぶ‥などがよくあるのがタイ作品。物語の展開が早いのだ。「そんなのあり?」と思うような設定が出てきたりも。
そのため登場人物の心情の変化を丁寧に描いていく日本の作品に慣れている人は正直戸惑うかもしれない。けれどそこが面白いのだ。
今作もそんなテンポの良い場面転換がありながら、主人公であるソウタとカイの「両片思い」を描いている。
独特の世界観を持つタイBL。けれど今作の主人公はソウタとカイという日本人だ。
同性婚が認められているタイではない「日本人の同性同士の恋」、それ故の「この恋が叶うはずがない」という枷が2人の恋をもどかしいものにしている。
「タイ映像作品の世界観のなかで恋をしていく、ソウタとカイという日本人の2人」というのがこの作品の持つ唯一無二の魅力かもしれない。
主演の2人はチャンプ監督の世界観にしっかり喰らい付いているという印象。
アジアにルーツを持つ2人。
森崎さんは確かな演技力で「ソウタ」をモノにしている。
カイを想い続け、思わず「可愛いらしい人だな」と思ってしまうような魅力を振り撒きながらも感情の起伏もあり難しい役どころだが、ガツンとハマっている。
感情を爆発させるシーンは彼の演技力が説得力を持たせている。
タイハーフである向井さんはタイ語も披露、タイと日本の世界観を繋ぐ大きな役割を持っている。パブリックイメージと全く違うクールな役が意外にもハマっているし演技も自然、そのギャップ故にアイドルの彼とはまるで別人に思えた。そこに「カイ」として存在しているので物語に集中出来る。
この2人は物語の主人公でありながら、観ている側からすると「どういった感情で、どういった行動でそうなった⁈」と思わせるところもあり。
タイBLは予測不能なこともよく起こるし感情が読めないこともよくあるので見ているこちら側が点と点をつなげたり色々と想像したり、補填したりする必要があることも。
それでも物語の登場人物としての説得力を持たせたのはキャスティングがこの2人だったからだと思う。良く演じている。
個人的にオススメのキャラは及川さん演じる「ジン」。ただのソウタの先輩役ではない。
左手薬指にはきらりと光るリング、けれど‥という面白い役どころで、タイの提携会社の若社長・サンとのやり取りは実に軽快。
及川さんの「面白そうだからオファーを引き受けた」という言葉、まさに活きていると思う。
物語に花を添える存在だ。
チャンプ監督の映像作品はその「映像美」「音楽」「演出」が特徴的だが、今作もそれは健在。
今作の物語の大筋や音楽、演出はチャンプ監督の意向と日本側とのやり取りで完成されたものらしく、例えば映画タイトルにもある劇中歌・カイが歌うソウタを想って作った曲「LOVE SONG」はタイの有名アーティストThe Toysの作曲に日本製作陣の歌詞が載ったもの。
このメロディーラインは今の日本にはあまりないキャッチーさで美しい。それでいて何故か懐かしさも感じるので色んな世代の人に聴きやすいと思う。
そんなメロディーに日本語の歌詞が載っているのが正直不思議な感じもする。
ライブシーンはその場で実際に歌った歌声が採用されたとのことで臨場感もあり、これを劇場の大画面とスピーカーで聴くだけでも価値があると思う。向井さんのハスキーボイスが活きた歌声は唯一無二だ。歌が生きるキャスティングが秀逸。
このライブシーンは音質にも監督のこだわりを感じた。音の広がりが明らかに違う。
この歌以外の劇中の音楽も、自らギターも取ったというチャンプ監督らしさが溢れているので必聴。
また、チャンプ監督の撮る独自の質感の映像にタイの美しい景色や名所もこれでもかと出てくるのでそこも楽しめる。
そして、これもタイBLらしい笑いの要素も。
個人的には物語後半、主人公のひとりであるカイの行動理由が判明するシーンで「なるほど‥」とスッキリ。
最後までチャンプ監督らしさが出ている作品だった。
全体的に見て、主演は日本人の2人であるが「タイの映像作品を観たな」と感じる、一般的な邦画とは一線を画す作品であると言えると思う。(※お二人ともアジアにルーツがありますが主な活躍の場は日本なのであえて日本人と書かせていただいています)
この映画を観終わった後、タイBLに触れたことがない人は「もっとあそこの場面を詳しく見たい‥!」「どうなっていた?」という感想を持つ人もいるかもしれない。
それ故に作品をリピートして観てそれこそ「行間を読む」ことを楽しんだり、この作品を観た人同士で「考察する」ことも楽しいだろう。
先述もしたが物語後半に登場人物の行動理由が判明する部分もあるので、リピートして観るとより物語がすんなり入ってきて面白いと思う。
タイBLはドラマでも「最終回なのにここで終わり⁈」ということも多々あり、その後は各々で考察したり、またそんなファンの声を受けて2ndシーズンが作られることもあるような作風が多々。
そこも楽しむのが醍醐味だ。
さらに今作に限ってはノベライズが出ているようなので、そちらも読んでみようと思う。
「行間」が補足されより楽しめるかもしれないし、それを読んだ上でもう一度映画を見るとまた新しい視点で映画を観ることも出来るだろう。
「一般的な、広い客層に向けて受ける映画」ではないかな、という思いから星はひとつ減らしたが、キャスティングは秀逸だと思うしタイと日本の合作映画のひとつの形として完成された作品だと思う。
個人的には、ちょっとでも今作が気になっている人はこの不思議な世界観の映画に飛び込んでみてほしい。
「映画の物語が終わった後の登場人物たちの未来」や「物語中のあのシーンの間に‥」など、たくさんの想像力を掻き立てる作品だと思うし、誰かと話したくなる作品だと思う。
邦画とも洋画とも言い難い、新しい映画の誕生かな。
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