「向き合わねばならないことをわかっていながらスルーしていないか?」雪風 YUKIKAZE しんしーさんの映画レビュー(感想・評価)
向き合わねばならないことをわかっていながらスルーしていないか?
公開当初の辛口レビューから高評価のそれが増えていますが…つくづく評価の難しい映画だと思います。で、いろいろ考えた私の結論。観ている間は私もけっこう感動していたのですが、やはり高評価はできない映画です。他の方がレビューで『これは映画作品ではなく映画製品』と書いていらして、言いえて妙だと思いました。
CGがチャチいとか映像が使いまわしとアップばかりとかラストのアレとか、いろいろツッコミたくはありますが、まぁ、その辺は二の次ということにしておきます。そのあたりの不満ではなくて…私は太平洋戦争を舞台に物語を紡ぐのなら、「軍上層部はなぜ勝ち目のない戦争を暴走して継続していたのか」「歪んだ軍国主義」「旧日本軍の理不尽な縦社会」「戦争は殺し合いであり、被害者であり加害者であること」等々を『きちんと描こうとしなくてはいけない』と思っているのですが、しかしこの映画、制作者はそのことを理解しているのにあえて目をそらしているような感じを受けています。
特に4点目、『戦争という状況の中で命を救い続けた』と雪風の戦いを美談にしていますが(勿論それはとても立派なことですが)、「イヤ、この映画の雪風だって魚雷撃って敵艦撃沈?してね?」と思ってしまう訳です(この映画を観たのがひと月近く前なので撃沈してなかったらすみません)。
戦争なのですから雪風の行為を否定する気はありません。しかし、『山火事に巻き込まれて後がない救難者を救うために、成功率は万に一つの命がけの作戦を実行し成功させるレスキュー隊の感動的なストーリー』と同じ感覚で一連のシーンを描いているように思える製作者の視点に疑問を感じます。
あくまで例えですが、普段フィクションやファンタジーの戦争で商売をしているヒトたちが「戦後80年だから太平洋戦争を舞台にしたイイ映画を造ろう。でも(前述したような)いろいろ面倒くさくなりそうなトコは、ホラまぁ、テキトーにスルーして造って(音符)」と制作サイドに発注したんじゃねぇか?と勘ぐってしまいました。
この映画で若者に太平洋戦争に興味を持つ人が増えればそれは素晴らしいことですが、この映画で太平洋戦争・戦争をわかった気になられることを私は懸念します。
出演俳優さんたちはこの映画が「上っ面の美談」だなぁと感じているがゆえに、だからこそ真摯に演技しなくてはいけない、と思われていたのではないかと感じました。俳優の皆さんの演技はとても評価しています。…ただなあ、みんな軍服がキレイだったり肌がツヤツヤしてたり坊主頭じゃなかったり…は百歩譲ってあきらめるんですけど、若い2等水兵(?)さんの頬がたぷたぷしているのだけはいただけませんでした。頑張ってもうちょっと痩せてきてよ…

