「もう戦争映画作るのやめないか?」雪風 YUKIKAZE あんのういもさんの映画レビュー(感想・評価)
もう戦争映画作るのやめないか?
この映画は太平洋戦争時、日本海軍の主力駆逐艦「陽炎型駆逐艦8番艦 雪風」が題材となっている。この雪風という船は戦地から必ず帰還してくることで「幸運艦」や「呉の雪風 佐世保の時雨」と謳われていた。戦後「丹陽」という名で中国に賠償艦として引き渡された。ここまでは史実だが、最近の戦争映画やはり脚色が酷い。どこがと聞かれれば、全てがと答えたくなってしまうほどに。
そこにメスを入れても仕方がないから映画作品としての切り口で感想を書くが、何よりストーリーの濃度が薄い。例えば、不発弾が艦内の浸水した場所に沈んでしまい、爆発しないようにそれを取り除き、信管を外すシーン。若手乗組員が水の中に5分間潜れるから、自分が行くと立候補し、水の中に潜り、他の乗組員は5分間待つ。カットが変わった瞬間「あと3分か」もう一度カットが変わって「あと2分だ」。正直、理解に苦しむ。そこはもっと濃密に、緊迫した心理描写や作業風景を書いてほしい。上で待つ乗組員にフォーカスするなら、何もできない無力感や、信じたり、祈ったりするシーンを少なくとも5分。なんならそれ以上の時間割いたっていい。いや、割かないといけない。また、坊ノ岬海戦のシーンでは戦艦大和が轟沈するまでの時間が非常に短く、愕然とした。史実では約2時間攻撃を受け続けた後に轟沈する。しかしこのシーンに関しては、この映画の本筋ではないからまだ理解できる。
そして戦争映画にも関わらず、服や顔が綺麗すぎるのも非常に違和感があり、リアリティがなくチープに感じてしまう。そういったところを指摘する人間が製作陣にいなかったのか非常に不思議である。
ここからは作品を離れて、戦争映画一般について述べたい。例えば、紀元前のことを題材とした物語を創作する。その頃について書かれた資料は少なく、正直その資料が事実ではないかもしれない。しかし、その余地を創作で埋め、膨らませることができる。しかし、たった80年前のことについての資料は膨大にあり、ほとんどが事実に則し、余地なんてものはほとんどないだろう。そんな中、創作をしてしまうと、それは「嘘」になりかねないし、私はそれを「嘘」と呼ぶ。印象操作といっても過言ではないだろう。だから最近の戦争映画は好きになれない。フィクションならフィクション、ノンフィクションならノンフィクションだとはっきりさせなければ、危うい。
ただし、音楽は非常によくできており、また、効果的に使われていた。音楽がもたらす臨場感は、作品全体の欠点を部分的に補っていた。この映画で評価できる点である。個人的には航行している雪風を見ることができたのも良かった。結局、私は「戦争映画」という形式そのものに限界を感じる。だからこそ冒頭で述べた問いに立ち返らざるを得ないのだ。
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