「生きるという視点で戦争の悲劇を捉えた異色作」雪風 YUKIKAZE みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
生きるという視点で戦争の悲劇を捉えた異色作
夏休みに公開される太平洋戦争における日本の悲劇を描いた作品の中でも、本作は生きるという視点から戦争の悲劇を捉えている異色の秀作だった。
本作は太平洋戦争当時、出撃する度に人を助けて無事に帰還することから『幸福艦』、『不沈艦』と言われた、軽量で機動性に優れた駆逐艦・雪風を舞台にした物語である。戦況は徐々に悪化していくが、それでも雪風は寺澤一利艦長(竹野内豊)を中心に知力を駆使して戦っていく。撃沈した船の乗り組み員も救出する。そして戦死者も出たが不沈のまま終戦を迎える・・・。
戦時下の合間に母港の呉港に帰港した時の艦長と義父との会話での義父の言葉が出色である。戦時下ではいつ死ぬかわからないからこそしっかり今を生きるべきという主張は現代にも通じる生きる心構えだと感じる。また、九死に一生はあっても十死に零生はないという言葉は当時の日本の玉砕攻撃にかなり踏み込んでいて迫力がある。生きるという視点で太平洋戦争を見事に捉えている。
何度も登場する撃沈した船の乗組員の救出シーン。綱梯子を使って必死に甲板に這い上がろうとする人たちの手を雪風の乗組員たちがしっかりと握って甲板に引き上げる光景は映像的には派手さはないが静かな緊張感がある。助けられる方も助ける方も懸命であることは画面からひしひしと伝わってくる。命は一つだけだからこそ救える命は全て救うという雪風の乗組員たちの信念が際立っている。
終盤。1970年開催の太陽の塔に象徴される華やかな大阪万博の映像が流される。戦時下にあっても一つしかない命を脈々と引き継いできた日本人の懸命な努力が焦土と化した日本を大阪万博が開催できるまでに復興させたことを如実に物語っている。
時代を逆行させないためには、現代史の教科書などに本作の様な作品を紹介するのも一考だろう。
本作は、単に戦争の悲劇を描くだけでなく、生きるという普遍的な視点を通して、命の大切さと平和の尊さを問いかけている。戦後80年を迎えた今こそ、本作の提起したメッセージに着目したい。
みかずきさん、コメントありがとうございます
>評価点に躊躇せず多くの方、特に若者に見てほしい作品です。
本当にその通りだと思います。兵士や水兵などと言うと、屈曲な大男たちを想像しがちですが、実際には10代後半から20代前半の子供たちだったと言います。若い人たちがこの映画を見て、少しでも「生きる」ことについて考える機会になればと思います。
共感&コメントありがとうございます。
当時は口にすることが憚られ、それでも本音では抱いていたであろう思いが、ひしひしと伝わってきました。
映像がチープだとか、ラストの演出が興醒めだとかいった理由で、レビュー評価は芳しくないようですが、私のように見る目のない人間には、十分に良作だと感じられました。
>1970年開催の太陽の塔に象徴される華やかな大阪万博の映像が流される。戦時下にあっても一つしかない命を脈々と引き継いできた日本人の懸命な努力が焦土と化した日本を大阪万博が開催できるまでに復興させたことを如実に物語っている。
万博のシーンは評判良くないですが、私はみかずきさんのおっしゃることにまるっと共感です!
共感ありがとうございます!
今までの戦争を描いた映画は、「日本のいちばん長い日」のような大東亜戦争全般を大局的に描いた作品が多かったですが、本作とか「木の上の軍隊」のような新しい視線で描いた秀作が多かった年でもありますね。
戦後80年の節目で戦争映画にばかり注視していたので、大好きなアニメ作品の「小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜」を見逃していたことに今日気付いて、悶絶していました。
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