「ハーフサイズの甘口海軍カレー」雪風 YUKIKAZE せきれいさんの映画レビュー(感想・評価)
ハーフサイズの甘口海軍カレー
まず良い所から
特攻で「死ぬ格好良さ」を全く描かなかったところ。作品の大きなテーマである「生きる」「助ける」というところにスポットを当て、覚悟を決めた男たちが死ぬ瞬間は徹底的に排除し、救助するために懸命になる男たちの活躍を描いている。
同意はしないが、日本の戦争映画の得意とする抒情的なヒロイズムを捨てるということで、かなり勇気のいる決断だったと思うが、筋が通っていると感じる。
で、悪い所。
一つは説明的なセリフの多さ。戦争の流れ、海軍の立場、艦の置かれた状況をセリフで懇切丁寧に説明してくれるのだが、これをされると、観客に向かって喋っているようで、かなり醒めてしまう。低年齢層に向けての親切かもしれないが、もっと客を信用して突き放していいと思う。
二つ目は戦闘シーンの少なさ。しかも近景ばかりが多くて周囲の状況が分からず、全体的にアッサリしていて、全く迫力がない。
遠景は数秒チラッと入り、最近の技術のおかげか、かなりレベルの高いディテールがうかがえるのだが、数秒である。かわりにキャストの顔ばかりの近景がほとんどを占めていて、これは「男たちの大和」と同じ病である。
艦全体が大写しになるような中景はほぼなく、艦長が艦橋から頭を出しているカッコいい回り込みシーンが僅かワンカットのみ。これでは客の大半を占めるであろう軍事マニア層が怒り出しそうだ。
三つ目が、面白味を見つけるための取っ掛かりが、物語の終盤まで登場しないこと。俗な言い草になるが、普通の映画だと、嫌なやつがいたり、強大すぎて勝てない敵がいたり、秘密を抱えていたり、大きな謎があったりで、観客にストレスを与え、物語終盤まで耐えさせてくれる。
しかし、この物語は爽やか縛りなのか、妙にストレスがない。人間関係は爽やかで嫌な奴は登場せず、大した葛藤も秘密も伏線もなく、航海はほぼ順調である。これではさすがに退屈する。
私は、歴史的な事実を扱った映画において、ヒューマニズムっぽい味付けや、ポリコレに関して、割と肯定的な方である。実在の人物の価値観を改変し、現代人の好みに合う価値観を持たせ、女性子供を大切に扱うことに関して、興行である以上、仕方のないことだと思っている。
当時の人間のままの価値観で描くと、一般的な人はドン引きしてエンタメどころではないし、ライトな歴史ファンはトラウマになるだろう。これは、主役をイケメンや美人が演じるのと同じで、歴史ファンが払うべき手数料のようなものだと思う。
この映画の場合も、主役の寺澤艦長は、実在の寺内艦長と価値観も見た目も全く違う人物だろう。そこまで改変したのなら、もう少し踏み込んで、映画らしいフィクションを入れてもよかったのではないか。
おそらく大和の悲劇的な最後や、雪風の度肝を抜くようなアクションシーンを期待してやってきた観客に対して、望んだものを提供できなくても、面白味を盛ってよかったのになあと感じました。
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