「普通がいいな。←いやいや、ヤベーレベルだって!」雪風 YUKIKAZE 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
普通がいいな。←いやいや、ヤベーレベルだって!
戦後80年。年々戦争の記憶が遠退いていく。
終戦の年に生まれた人でさえ80歳。つまり、戦時下を体験した人は80歳以上、戦争をしかと覚えているとなると90歳以上にもなり、実際に戦地へ行った人は95歳~100歳、それ以上にもなる。
日本は超高齢化社会でその人数も世界中と比較して多いが、戦争を覚えている/伝えるという観点からすれば限られてくる。
いつからか。“戦争を知らない世代”なんて言葉が言われるようになったのは。
その当時は比喩だったかもしれないが、今はもう本当にその言葉通り。
8月15日に何があったか知らない。8月6日や8月9日に何があったか知らない。そもそも日本が昔、戦争をしていた事を知らない世代も。
これって真に警鐘を鳴らすべき事だと思う。
近い将来戦争を知る世代が皆いなくなり、日本が戦争を知らない世代だけになった時、戦争をTVやスマホのニュースのみの遠い他国の事と無関心。戦争をリアルサバイバルゲームでしか知らず、そういった感覚で再び口火を…。
突飛な考え過ぎかもしれないが、私は本当に危惧している。だって戦争なんていつの世も、愚かな理由で始まるものだから。
だからこそ毎夏、戦争を振り返る事は大事である。
毎年毎年耳にタコ…なんて事はない。うんざりするほどうんざりするほど、耳や頭や心に留めて置かなければならない。
映画でそれを伝えていくのも映画が存在する意義の一つだ。
全く知らない戦争の姿=恐ろしさ、悲惨さを、フィクションながらも映像として見る/知る事が出来る。
節目の年には特に多く戦争題材の映画が作られるが、今年も例外になく。
駆逐艦“雪風”。
数々の激戦をくぐり抜け、大和や他の戦艦は沈んだが、雪風は終戦まで沈まず、“不沈艦”や“幸運艦”とも。
戦後は“復員輸送船”として兵を故郷に送り届け、1969年に台風被害で破損するまで使命を全うした。
何度か映画の題材にも。近年だとあのゴジラ相手に闘ったと言えば分かる人も多いだろう。(雪風繋がりで田中美央がまたまた乗艦)
新艦長、先任伍長、若い水雷兵を主軸に、彼らがどんな思いで雪風に乗り、何の為に闘ったか。
VFXを駆使した戦闘シーンもあり、スケールなど今夏の戦争題材の映画の中でも一番の大作であろう。
しかし残念ながら、名作にはなれず沈んでしまった。
作風としては真摯な作り。それ故、演出も脚本も演技も良く言えば正攻法、悪く言えば教科書通りのステレオタイプで特別秀でたものがない。
雪風が出撃した幾多の戦闘も順を追って紹介しているが、ダイジェスト的。ドラマやエピソードに深みは無く薄っぺらく、戦闘シーンですら短く、迫力や緊迫感に欠ける。
その戦闘シーンもVFXの粗さは元より、似たような描写ばかり続き、創意工夫ナシ。『男たちの大和』のような迫力もナシ。
一応雪風にフォーカスしているが、そこまで主軸って訳でもなく、何を焦点にしたいのかボヤけてもいる。
軍の無謀な作戦に異を唱える士官たち。当時軍人が上からの命令に逆らう事などあり得なかったので、こんな描写はあり得ない。戦地に赴く軍人たちの訴えを聞き入れ、作戦内容を変える軍上層部もあり得ない。
武士道精神を持った艦長、艦長と先任伍長が家族やこの国の“普通”の未来を思う。悪くはない描写もある。
が、若い兵たちが敵国の凄さについて話が盛り上がったり、お決まりのような仲間の死。これまたあり得ない描写や泣きを強要するような悲劇を挿入。
他にも細かく言うとあの時代なのに若い兵たちが短髪じゃないなど、作風は真摯なのに、リアリティーなどに本気度を感じられず。
竹野内豊、玉木宏、奥平大兼らの熱演も空回り。
要はこれは、お国の為に闘った崇高な軍人を称えるプロパガンダ映画。
ラストシーン、雪風乗組員たちが今の日本へ、「見てるからな~!」「頼んだぞ~!」と声高らかにメッセージして、チープな演出にドン引き…。
“今の日本”も何故に最初の大阪万博が開催された1970年代…? 回想ナレーションで済ませるなら現大阪万博の現代でも良かった筈。じゃないと今を生きる我々にイマイチ響かない。
これ、私が苦手なタイプの戦争映画。前にも何かのレビューで書いたが、今戦争映画を作る意味は反戦映画である事。兵たちの友情や迫力の戦闘シーンなど要らない。そんなの、戦勝国であるアメリカが余裕ぶっこいてやるやつ。
一般人目線で、戦争によって大切な人や自由が奪われていく。戦争の悲惨さ、憤り、愚かさを訴える反戦映画でなければ、今日本が戦争映画を作る意味はない。一般人目線は當真あみちゃんが請け負うが、あれだけ…? 戦時下の苦しさも感じられない。
一応言いたい事、訴えたい事は分かるが…、
見るもの、魅せるものに欠けた。
まさか今の時代にこんなの作るとは…。
節目の80年にあまりにもお粗末な、戦争賛美に捉えかねない時代錯誤作。
普通がいいな。←いやいや、ヤベーレベルだって!
暫く、このサイトから姿を消していましたが、
ようやく、映画.comIDへの引継ぎが完了して復活できました。
レビュー記録の大切さが身に沁みました。
今後ともよろしくお願いします。
では、次回は映画談義をしましょう。
こんばんは。
近大さんのお付けになったタイトルに笑わされレビュー拝読。。
おっと!タイトルとのギャップよww
すごい説得力でした!
全てにおいて大共感です。
私も特に8月には子に嫌がられる程戦争についての話しをします。
「木の上の〜」や本作の事も話して聞かせました。
私の親ももちろん私も、戦争を経験してはいないけど、映画や本などで学ぶ事、語り継ぐ事はとても大切だと思います。
それ故になぜ、今こんな映画を作ってしまったのか(°▽°)
期待が大きかった分落胆しました。
近大さんのレビューに没入していたらラスト又タイトル来て笑いました(^。^)b
ナイスレビューです巧いw
大阪万博からのナレーションは、雪風が沈んだ年ということで理解はしましたが…
冒頭のフリから終盤まで引っ張ることですかね。
反戦でもエンタメでもなく、どこを目指した作品なのか最後まで分かりませんでした。
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