「テーマは良いが、散漫な構成と後付け感で力を失った作品」雪風 YUKIKAZE 日本年金機構さんの映画レビュー(感想・評価)
テーマは良いが、散漫な構成と後付け感で力を失った作品
『雪風 YUKIKAZE』
実在した駆逐艦『雪風』を題材に「命を救う」という普遍的なテーマを描こうとした点は素晴らしく、公開前は大いに期待した。題材の格、出演陣の顔ぶれ、主題歌まで揃っており、これなら戦争映画の新たな金字塔になるのではと。
しかし、実際の仕上がりは残念ながら期待は大きく裏切られる。まず構成が粗く、真珠湾からミッドウェイ、ソロモン、マリアナ、レイテとシーンが飛びすぎて感情の積み重ねが途切れ、登場人物の内面が十分に掘り下げられないまま場面が変わり、命を救う場面も「出来事のダイジェスト」にしか見えず、緊迫感や迫力に欠けてしまった。
さらにリアリティの不足も深刻。俳優陣の演技力は確かに高いものの、肌艶や体型が健康的すぎて戦時下の兵士には見えず、極限状況の疲弊や汗や汚れが映像に出すことができず、観客を戦場に連れて行く臨場感がないまま、結果として「命の重み」が胸に迫ることがなかった。
テーマ設定も後付け感が否めない。主題歌のタイトルが「手紙」だからか、映画内でも「手紙」が象徴のように扱われたのか?と疑ってしまうほど、実際に手紙のシーンはほとんど無く、物語を貫く要素にはなっていない。艦長の娘が父の志を継ぐような積み上げも無いまま、最後に成長した娘(有村架純)が唐突に登場し、感動の押し売りに見えてしまう。さらにラストで大阪万博につなげる演出は、作品のテーマから自然に導かれた必然性がなく、宣伝色が強く浮いていた。
まとめれば、題材とテーマは優れているのに、構成の散漫さ・映像の力不足・後付けに見える要素の連続によって「命の重さを伝える」という最大の使命を果たせなかった作品だと感じます。惜しい、という言葉に尽きます。
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