「艦長のセリフが先代・現代・後代を『繋ぐ』」雪風 YUKIKAZE やくもどんさんの映画レビュー(感想・評価)
艦長のセリフが先代・現代・後代を『繋ぐ』
先任伍長の早瀬が「どんな未来になっていてほしいか」と寺澤艦長に尋ねたとき、「普通がいいな」と答えたシーンは有名だが、その他にも、「私はここでいい」という寺澤艦長のセリフが劇中に3回も登場する。シチュエーションもニュアンスもそれぞれ異なるが、この言葉は「普通でいい」という想いと同義であると私は捉えた。
「普通にここにいること」が、実は一番幸せなことなのだ――。それは、無駄に死なねばならなかった過去の戦いや、未来に起こりうる戦争、そして今を生きる私たちへのメッセージであり、忠告でもある。
このように、本作は“先代・現代・後代”を『繋ぐ』ことをテーマとした映画である。たとえば、海に投げ出された兵士の手を取り、手と手を繋いで助け上げるシーンをはじめ、早瀬の思いと寺澤の願いを手紙によってサチへ繋ぎ、さらに寺澤の正義と武士道を、その娘へと繋いでいく。何度か見ていると、そうした細やかな映像の中に“繋ぐ”という意図が込められていることに気づかされる。
とはいえ、あえて映像面で注文をつけるとすれば、海から兵士を救うシーンにはもう少し緊迫感と人間模様のドラマがほしかった。やや短く、あっさりと描かれていた印象を受けた。
また、私は鑑賞前に小説を読んでいたのだが、水雷員・井上の戦後についてはナレーションで触れられるのみで、早瀬の教えを繋いで教師になったことが本作では描かれていなかったのが残念だった。しかし、あえてそれを省き、成長した寺澤の娘だけを登場させることで、感動の焦点を絞る効果があったのかもしれないとも思う。
エンディングの展開は事前に知っていたが、誰がその役を演じるのか楽しみにしていた。そして、「おお、そう来たか」と、思わずほくそ笑んでしまった。
どこへ行っても外国人だらけの日本。先人たちは、今の日本を見て、何を思うのだろうか――。
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