「生きて帰って手紙を書くという言葉には、戦争を語る上で大事なものが宿っている」雪風 YUKIKAZE Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
生きて帰って手紙を書くという言葉には、戦争を語る上で大事なものが宿っている
2025.8.15 MOVIX京都
2025年の日本映画(120分、G)
駆逐艦「雪風」の大戦後期の活躍を描いた戦争映画
監督は山田敏久
脚本は長谷川康夫&飯田健三郎
物語は、1970年の大阪万博の映像とともに、雪風の水雷員だった井上壮太(奥平大兼)のモノローグが重なって始まる
井上は「寺澤艦長(竹野内豊)と先任伍長の早瀬(玉木宏)に伝えたいことがあります」と語り、映像は1942年6月に日本海軍がミッドウェー海戦にて敗北した事実を伝えていく
その後、井上が乗っていた艦は被弾し、雪風に救われることになった
気を失いそうになる井上に対して喝を入れた人物、それが早瀬であり、井上にとって彼は命の恩人となっていた
その後、井上は雪風の水雷員となり、早瀬たちと任務を果たす間柄へと成長していった
映画は、主に1943年頃からの雪風を描き、井上とほぼ同時期に寺澤が艦長に就任する様子を描いていく
そこから大戦末期の戦闘が描かれ、主にマリアナ沖海戦、レイテ海戦などが描かれ、最後は「大和」を見届けるところまで描かれていく
基本的に史実ベースのフィクションとして展開されていて、その但し書きが映画の最後に示されるという演出になっていた
日本軍の上層部などは実名で登場するが、雪風乗務員はほぼ全員が架空の人物となっていて、実在した人々をモデルにしているとされている
このあたりは寺澤艦長のモデルは誰なのかといった考察ブログなどが多数存在するので、それを参考にされた方が早いと思う
映画は、戦後80年の節目の終戦の日に公開されるという念の入れようで、そのメッセージは「戦争中でも国を次世代に託そうとする決断」というものが描かれていく
大和が一億総特攻の魁となるシーンがあり、ここでは帝国海軍の司令官・伊藤整一(中井貴一)が登場し、大和の艦長・有賀幸作(田中美央)と将来のために策を講じた様子が描かれる
さらに、寺澤と早瀬が艦長室で語るシーンなどに反戦的なメッセージがたくさん散りばめられている
物語としてはあまり起伏のない作品で、戦闘シーンも控えめとなっていて、当時の日本の状況とその戦時下における市井の人々の声、軍人としての声などが描かれていく
日本全土が焦土となるまで終わらないのではと危惧する人もいるし、それを肯定も否定もしないように感じる
とは言え、雪風が生還したのにも関わらず、広島と長崎に原爆が落とされたことには言及しないので、早瀬の妹・サキ(當間あみ)がどのようにして亡くなったのかの言及もない
早瀬の方が先に殉職しているのでスルーされがちだが、寺澤や他の乗組員たちは早瀬の故郷のことなども知っているので、言及がないまま終わるのは不自然のように思えた
その他にも「特攻」とされた零戦の出撃なども描かれるが、飛び立ってから「実はあれはそうだった」と解説するものの、特攻の映像などは描かれないし、いろんな艦船が沈んではいるものの、その沈没シーンは大和ですら描かれない
このあたりにメッセージ性はわかるが戦争の悲惨さはあまり伝わらないという印象が残った
戦争は始めてしまえば終われないというセリフがあるように、そこに至らないことが重要なのだが、そのために描く内容が乗務員たちの友情とか人間関係、上層部の現場を無視した決断というのは微妙だと思う
誰かが始めたものであっても、個々は国の将来のために何を考えて行動するのか、という部分が強調されていて、そのために雪風がどういった存在だったのか、というのは置き去りにされているように思えた
そもそも駆逐艦として出撃しているのだが、映画では救護船の扱いになっているのが微妙で、雪風の戦果というものは映画内ではほとんどわからない
なので、映画だけを観ると、戦闘で負傷した兵士を引き上げるだけの仕事をしているように見えるので、それで雪風の魅力や実力を描けているとは言えないのだろう
いずれにせよ、若い世代に向けて戦争はダメだよねということを伝えるのも大事なのだが、根っこの部分においては「あの時の決断が今の日本を作っている」という事実をもっと打ち出した方が良かったと思う
雪風が助けた人が戦争を生き延びて子孫を残しているし、伊藤の決断によって、若い人たちが戦死を逃れていた事実がある
そう言った「避けられなかった結末」に対してでも、国の将来のために決断と実行をしてきたということが大事なので、その連鎖が巡って今の国民がいるという事実にクローズアップした方が良いと思う
これは、日本人ならば誰しもが覚えておくことであって、自分が生まれるまでの歴史において、奇跡的に繋がっている命というものが今の自分を存在させているし、生かしているということを忘れてはならない
そう言った側面を考えると、1人残らずに救助をしてきた雪風が救った命が、今の国民にどれだけ波及しているとか、伊藤の決断によって生かされた命がどのように繋がって今の日本を構成しているかをわかりやすく見せた方が良かったのではないだろうか
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