「ロックスターからポップスターへの決意表明」MGA MAGICAL 10 YEARS DOCUMENTARY FILM THE ORIGIN はなてんさんの映画レビュー(感想・評価)
ロックスターからポップスターへの決意表明
大森はこれまでの音楽活動の中で、(自分の中にある孤独は、どこまでいっても共感してもらえるものではない)と気付いたと思う。
だから大森は「今、自分らはロックスターとして音楽をすることから、ポップスターとして活動していくこと」に対する決意表明をしていたのだ。
つまりこれは、大森自身の抱える「孤独」をメンバーやファンに共感してもらえることを期待するのではなく、「この瞬間を一緒にいられることの有難さを共有したい」という気持ちにシフトしたいという事だ。
そして大森は(自分の抱える孤独感は埋まらない。これが自分の宿命だとしても、気の合う人達と一緒に生きていくことは選択できる)という気付きと(バンドメンバーや関係スタッフ達との関係を大切にしようと言う気持ちこそが一番大切)ということにも気付いている。この思いが原動力になり大森自身が(この事を忘れないようにこのドキュメンタリー映画を作ろう)と決めたのだろう。
彼の孤独感を強めてしまう要因を考えるとその1つに、「大森の心の中でなっている曲の完成度が高すぎること」と「その完成度の高い曲を『破壊し再構築するケミストリーのようなパワー』をバンドメンバーに求めている」ところにある気がした。
しかし大森が求めるような「既存の楽曲をさらに高みに連れて行ってくれるようなフレーズや演奏」は大森の作る(楽曲の完成度の高さ)が邪魔をしてなかなか生まれにくい構造にある。
実際、ギターの岩井もキーボードの藤澤も(まずは楽曲の持つイメージに自分の演奏を近づけないと)という気持ちが先行してしまい、大森の期待するケミストリーが中々起こらずにいた。
この現実的なねじれが、これまでの大森の音楽活動においても、いつも彼の孤独感を刺激してしまう要因にもなっていたと同時に(自分の強い思いのせいで過剰にメンバーに重圧を強いている)というメンバーへの思いやりの気持ちに心が引き裂かれているのだろうと感じられた。
この10年間、バンドメンバーとの別れも経験する等様々な経験を通じて大森が、今到達した現時点での結論が、冒頭で書いた「理想とするロックスター像からの脱却と、ポップスターとして生きる決意」なのだろう。
若井、藤澤も大森の決意表明を真摯に受け取っていた。しかしまだ二人には大森の求めるような「大森の楽曲を破壊し再構築する」ようなプレイスタイルは獲得していないかもしれないが、大森と共に自分たちの愛する「Mrs.GreenApple」という入れ物を「かけがえの無いコミュニティ」として愛情をかけて守っていこうとする思いが強く感じられた。
僕自身も自分の孤独感を埋めるようにバンド活動をしてきた事もあり、大森や他のメンバーの関係性を自分の事のように感じる場面も多々あり個人的に感情的になってしまうこともあった。
このドキュメンタリーを観終わった後の感想として、大森が「自分を丸ごと愛してほしい。その方法は今はまだ分からないが、自分と同じ思いを持つ人たちと共に価値ある時間を過ごしたい」という大森の素直な心の声を聴くことで、自分の中にある大森と同じような気持ちに気づいて静かな感動に包まれた。
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