「ヤマトブームからアニメブームへ、ヤマトに乗った日本のアニメは大海に漕ぎ出した。」「宇宙戦艦ヤマト」放送50周年記念セレクション上映 プログラム3 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
ヤマトブームからアニメブームへ、ヤマトに乗った日本のアニメは大海に漕ぎ出した。
この企画上映の最後のセレクトは、ガミラス星本土決戦の2編(第23・24話)と、デスラー総統と古代進が初めて対峙する第26話(最終回)。
地球に激烈な攻撃を加えてきた謎の侵略者ガミラスの本星は、惑星としての寿命を終えようとしていた。
硫化物質に侵食され空洞化したガミラス星は、海は濃硫酸、大気は亜硫酸ガス、雨は希硫酸という恐ろしい状態であり、ヤマトは一時濃硫酸の海に沈む危機に見舞われる。
「ヤマトが溶けてしまう!」(アナライザー)
「古代、第三艦橋が溶け落ちたぞ!」(真田)
圧倒的な科学力と戦闘力を誇ったガミラス軍との数々の局地戦に勝利して、たった一隻で敵の本丸まで攻め込んだヤマト。
本星をもってヤマトの前に立ち塞がろうと待ち構えるガミラス。
双方、満身創痍の最終決戦である。
これまでも、ヤマトはボロボロになりながら最後の一手で逆転勝利を得てきた。その都度、航海を続けながら自力で再生し次の決戦に挑んだ、その不屈の闘志と使命感がヤマトをここに辿り着かせたのだ。
しかし、今ヤマトの眼前に現れたのは瀕死の敵本星だった。
殺らねば殺られる…これが戦争だ。
地球に侵略の魔手を伸ばしてきた敵にとどめを刺し、コスモクリーナーを地球に持ち帰らなければならない。その一心で死力を尽くして戦う。
戦況はガミラス不利に傾き、副総統のヒスが諫言する。
「総統、お願いです。もうやめてください。まだお気づきになりませんか、大ガミラスと言えど敗れることはあったのです。これ以上の戦いはガミラスの自殺行為です!やめてください!そして遅まきながらヤマトとの和平を、話し合いによる地球との共存の道を…総統!」
デスラー総統の恐怖政治の下に副総統としての存在感などなかったヒスの、命をかけた訴えだった。
プーチンの側近にもこういう人がいたなら…
いや、結局ヒスはデスラーに撃たれて散るのだった。
プリゴジンも然り、か…。
過去最悪な損害を受けながらも危機を乗り越えたヤマトだったが、古代進が見渡すガミラス星は廃墟と化していた。
古代の長いモノローグは、こう結ばれる。
「…我々がしなければならなかったのは、戦うことじゃない。愛し合うことだった。勝利か…糞でも喰らえ!」
低視聴率で予定放送回数を39回から26回に(企画当初は全52話だった)減らさざるを得なかった「宇宙戦艦ヤマト」だが(※)、その少数派の視聴者だけが、ここに至って熱く語られた博愛の精神に触れることができたのだ。
※各回の制作費が予算を大幅に超過して赤字を生み、過密スケジュールは最早スケジュールの体をなしておらず、制作・納品が困難な状態だったという説もある。
さて、イスカンダル星で古代守が生きていたことを知る第25話は残念ながらセレクトされていないが、私はこの第25話でヤマトに乗り込もうとした古代守が踵を返してスターシャを抱きしめる場面が堪らなく好きだった。
でも大丈夫。第26話の冒頭でちゃんとリプレイされていた。
古代守にしなるように身体を預けるスターシャの全身の動き、あれを描いた原画マンを私は尊敬する。
また、ほんの一瞬だが佐渡先生と徳川機関長の会話があるのも第25話だ。ボイスキャスト永井一郎(一人二役)の妙技が披露されている。
そして、長かった航海も終わろうという第26話(最終回)。
一路太陽系を目指すヤマトの艦内には幾分和やかな空気が流れている。
宇宙放射線病が悪化した沖田艦長は余命を意識して床に伏せている。が、帽子は脱がない。次元大介が帽子を脱ぐことがあっても、沖田艦長は決して脱がないのだ。
ここで、沖田艦長と佐渡先生との間で死後の魂についての会話があり、森雪の死と蘇生のエピソードを示唆している。
一方、デスラー総統は生き残っていて、ヤマトに白兵戦を挑む。部下に文字通りムチを振るって。
ヤマトに放射能ガスを送り込んで、デスラーはヤマトの戦士たちの眼前に降り立つ。
このときは、ガミラス人は放射能の中で生き、地球型の大気では生きられない設定だった。
艦長代理の古代進と対峙したデスラーは「坊や」「お若い艦長さん」と呼びかける。
藤川桂介の粋な脚本に、伊武雅刀と改名する前の伊武雅之のバリトンボイスで、最後にして初めてデスラーがカッコいい。
今回の森雪は超ミニの白衣姿で、これも最後のサービスか…。
「古代君が死んじゃうっ!」
真田さんの静止を振り切り、未完成のコスモクリーナーを作動させようとする森雪の叫び。
人類のため、地球のために長く厳しい戦いに身を置いてきた森雪も、一人の恋する女の子だった。
デスラーが最後に放つデスラー砲は、ガミラスの波動砲だ。「面舵いっぱい!」「よけられない!」
真田技師長が“密かに開発”していた〝空間磁力メッキ〟がここで役に立つ。
「そんなものがあったのなら、早く言ってよ〜」と、島大介の心の声が聞こえてきそうだ。
工場長から技師長になっていた真田さんは、どんな物でも“いつの間にか”開発してしまうのだ。
デスラーの怨念のような追撃を返り討ちにしたヤマトは、静かに地球へ帰還する。
歴戦の勇者沖田十三の魂は、森雪の命と引き換えに宇宙の星となった。
若者は生きて未来に歩み続けなければならないという、松本零士の強いポリシーがこの最終話に息づいている。
西崎義展プロデューサーの「宇宙戦艦ヤマト」に対する思い入れは並々ならぬものがあった。
作詞家の阿久悠は、主題歌の作詞を依頼されたときの西崎義展は「涙を流さんばかりに紅潮して熱く語っていた」と証言している。
地方局での再放送から火が点き、ファンクラブの結成、各種特集本の発刊、再編集版の劇場公開と、世にいう「ヤマトブーム」が巻き起こった背景には、視聴率が惨敗しても「…ヤマト」への情熱を持ち続けて奔走した西崎義展の力があった。
そして、マニメが儲かるコンテンツとなり、日本が世界に誇るアニメ文化の祖となったのだ。
本作もまた、ヤマトフリーク庵野秀明のチョイスに敬意を表し、この企画自体に☆フルマーク。
古代守がキャプテン・ハーロックとなって登場する幻のエピソードは、藤川桂介が脚本まで起していたという噂がある。どんなストーリーだったのか。
場合によっては続編でエメラルダスも登場していたかもしれない(笑)
コメントありがとうございます!
当時のファンクラブ会員証は、旧円谷プロファンクラブ、今は無きスター・トレックファンクラブ日本支部の会員証と並び、今も家宝にしてます!