「変な映画だった。(長文)」LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族 ねむさんの映画レビュー(感想・評価)
変な映画だった。(長文)
小池ルパンシリーズが大好きで、ずっと心待ちにしていましたが、これまでのシリーズの空気感がマイルドになってしまっていました。
過去キャラクターが登場するも、消化不良なまま物語が進行します。せっかく再登場させるのだから、もう少し見せ場を作ったり、リベンジマッチをガッツリして欲しかったです。徐々に盛り上がった上での山場、ではなく、いつのまにか謎にあたふたしていたら山場が来ていたという印象でした。空気階段が声優を務めているキャラクターも、そこまで掘り下げられる訳でもなく。そこに尺をつかうのであれば、ホークに見せ場を作って欲しかった。ヤエルとのリベンジマッチをしっかり描いて欲しかった。山風忍法帖やジャンプ漫画のように、刺客が主人公側のチームに1人ずつ襲いかかってくる展開や、刺客と一対一になれる場面を作りバトルをし、徐々に敵やバトルのスケールやギアが加速していく展開って、ベタだし見ていて大群で襲ってこいよ!と思うこともありますが、すごく綺麗な構成だったのだなと改めて思いました。個人的には、こんなふうに中途半端になってしまうよりは、そういったベタな盛り上げ方でも全然良かった。
絵柄の雰囲気もかなり変わってしまっていました。モンキーパンチの原作漫画を彷彿とさせるペンタッチの強弱は薄まり、クオリティは高いけど小綺麗な作画に。山場のムオムの不二子に対するギャグっぽい発言も、それまでシリアスでハードな世界観を築き上げてきた本作の空気感を壊していました。映像のクオリティは高いのですが、複製人間にあった前衛精神を期待していたのでがっかりです。複製人間の魅力って、シュールレアリズムの絵画の中に入り込み、二次元と三次元が曖昧になるような場面や、写真のコラージュ、ゴエモンに斬られたフリンチが出血をせずにパズルのように崩れていく場面等のアバンギャルドなアニメーション表現だったのだなと、自分はそこが好きだったのだなと再認識させられました。ただ絵が丁寧でかっこいいだけでなく、ただダーティでハードボイルドなだけでなく、表現としての意識があった。表現としての前衛精神が、複製人間には溢れていた。
極め付けは二つあるエンディング。B'zのエンディングが流れた後に一つ場面を挟んでまたエンドロールが流れ、冗長に感じました。人を呼ぶためにB'zを無理やり捩じ込んだような印象を受けました。どうしてもしっとりとしたメロディだけの音楽で締めたいという想いと、話題性が欲しいと言う下心がぶつかり合ってこうなってしまったのでしょうか。エンディングにしっとりとした音楽を流したいのなら、B'zは劇中歌やオープニング映像として流すとかのほうが良かったような。
正直な話、続き物の小池ルパン四部作の最終章であり、その四部作の中で複製人間の前日譚になりそうな伏線はありましたし、そもそも初見の方に優しくない作風の映画だと思います。にも関わらず、無理やりファミリー層や初見の方を意識し、ノリを軽くしたり絵柄の癖を中途半端に取り除いてしまったことで、結果的に小池ルパンのファンと初見の方、どちらにもあまり優しくない作品になってしまっていたように感じます。案の定、複製人間に続く、みたいな終わり方でしたし。とっつぁんを銭形呼びしていたので、とっつぁん呼びになるきっかけのエピソードがあるのかなとか、公開前に金ローでカリ城を放送していたし、すべてのルパンに繋がると言っていたので、カリ城要素も匂わせるのかなとか、何体かクローンがいることを示唆しそれぞれのシリーズのルパンがそれぞれ独立した複製人間で、どれが本物だかわからないみたいな解釈の余地を生ませるのかなとか、青ジャケから赤ジャケに着替えるエピソードもあるのかなとか色々妄想していましたが、複製人間要素しかなく、そこも残念でした。しかも、黒幕がマモーでした、続く。程度の接点。複製人間が劇場版一作目なので全てのルパンに繋がる、と言えなくもないですが、ちょっと大袈裟と言うか、誇大広告みたいだなと思ってしまいました。前日譚としても中途半端でした。複製人間の冒頭で死んだルパンがクローンなのかは曖昧で、青ジャケルパンだったのではないかと思わせる余地がありそこは少し面白いと思いました。ただ、それならもう少しその謎を匂わせるというか、一体どっちのルパンだ!?みたいな雰囲気にした方がより好みだった。
四部作がめちゃくちゃ面白かっただけに、残念。大人の事情もあるとは思いますが、こうなってしまうなら、OVAで今まで通りのエロくてバイオレンスでダーティな作風でやってくれたほうがよかった。裸でアチアチ踊りをする不二子のピンク色の乳首を見たかった。正直、今までの4作とのギャップがありすぎて、どこまでが最初の構想通りなのか、気になってしまいました。複製人間の前日譚で、なおかつ最終章はルパンが主役、という構成自体は最初から意識していたのかなとは思いますが、本当にこんな作風の最終章を意識して墓標や血煙を制作していたのでしょうか。数日前に公開された前日譚「銭形と2人のルパン」の方が本編より面白かった。不二子の乳首もピンク色で綺麗でした。
カリ城より複製人間派な自分でも、カリ城の方が面白かった。デッドオアアライブの方が、本作よりも小池ルパンに求めていた作風に近かったような気もしました。
ただ、義賊のルパンのイメージを脱却しようとする意欲作ではあったと思います。冒頭の銭形とのセスナでの攻防も、複製人間やカリ城でのカーチェイスを踏襲しつつ、場面を地上から空中に移し、新機軸の劇場版ルパンに挑戦していて、そこは良かったです。