劇場公開日 2025年2月14日

「その日、二十時間の顛末」セプテンバー5 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5その日、二十時間の顛末

2025年2月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

興奮

難しい

尺が共に百分弱との共通項を始めとし、
一週前に公開の邦画〔ショウタイムセブン〕と
かなり重なる部分が。

勿論、先の作品は{フィクション}、
こちらは{ノンフィクション}との違いはあれど。

放送の現場で
突然訪れたまたとない機会に
臨機応変に対処する中で、
数字や栄達を求める態度や、
事実を報道することに向き合う姿勢が
独特のスピード感で描かれる。

とりわけここでは、
制作陣がワンチームとなり
以心伝心で一つの有機体のように機能し事に当たる。
観ていて胸のすく思い。

1972年は、
イスラエルに対するパレスチナの武装組織による抗争が
とりわけ多くあった年との記憶。

5月8日には「黒い九月」による
「サベナ航空572便ハイジャック事件」。

その失敗を受け5月30日には
「日本赤軍」による「テルアビブ空港乱射事件」。

そして9月5日の、やはり「黒い九月」による
「ミュンヘンオリンピック事件」へと繋がる。

それを衛星中継で全世界に配信したのが
アメリカ「ABC」のスポーツ番組制作クルー。

まるっきり畑違いのフィールドも、
目の前の好餌は逃さずとの
ジャーナリストの本分を剝き出しに、
知恵と駆け引き、コネクションを駆使し
放送を継続。

人質が中継中に射殺されたらどうするのか、や
テロリストも自分たちの映像を見て情報収集しているのではとの、
生放送故の葛藤のエピソードも挟み込まれる。

その時の緊張感に満ちた副調整室でのスタッフの表情は
ドキュメンタリータッチの本作の中でも白眉。

一方で眉を顰めるのは、
政治や組織が絡むうさん臭さ。

テロ事件が起きても、当時のIOC会長『ブランデージ』は
オリンピックの継続を指示。
方や、命の危険が迫るイスラエル選手団をよそに
非日常の祝祭が何事も無かったように同衾する。

『マーク・スピッツ』は七つの金メダルを獲りながら、
身の危険を感じいち早くアメリカへ帰国したというのに。

そして最終盤での、人質全員解放との噂や広報発表。

当然、悲劇的な結末を我々は知っているのだが、
何故にこうした情報が流されたか。
現代にも繋がる、情報操作のテクニックを見る。

報道する際に、複数のソースに当たる必要性は
メディアには当然求められるも、
受け取る側もリテラシーを高く持たねばならぬことを改めて認識する。

最後の場面での、えも言われぬ余韻も
やはり近似さを感じさせる要素。

一つの事件が終わっても、
明日はまた異なる報道に当たらねばならぬ。

耳目を集める、
新たな出来事が画面を席捲するかもしれないのだ。

ジュン一