「カルト系実験映画のような雰囲気だが、疲れ目にはキツいビジュアルでしたね」消滅世界 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
カルト系実験映画のような雰囲気だが、疲れ目にはキツいビジュアルでしたね
2025.12.4 アップリンク京都
2025年の日本映画(115分、G)
原作は村田沙耶香の同名小説
生殖と性愛が分離された世界に生きる一人の女性を描いた社会風刺風ファンタジー映画
監督&脚本は川村誠
物語の舞台は、日本のとある都市
この世界では、夫婦は子を産んで育てるものの、性交はせずに、人工授精によって授かる世界となっていた
夫婦は夫婦以外の人間と性交することを認められ、それぞれは恋人を持って、日常を生きていた
そんな世界にて、両親の性交によって生まれた雨音(幼少期:落井実結子、成人期:蒔田彩珠)は、その特異性が周囲にバレて、いじめの対象になっていた
母・雫(霧島れいか)は「雨音に真っ当に育ってほしい」という願いを持っていたが、夫には去られてしまい、雨音と二人で暮らすことになっていた
高校生になった雨音は、人と同じように二次元のキャラ「ラピス」に恋をするようになり、同級生の水内(結木流星)も同じ想いを抱いていた
二人はラピスに捧げるために交わり、その関係はそこで潰えていた
その後、大人になった雨音は、正信(清水尚弥)と結婚することになったが、彼は禁忌である性交を求めてきてしまう
雨音はそれに抵抗して相手を殴り、そのまま離婚することになった
そんな折、雨音は医師になった水内と再会し、彼が男性でも妊娠できるような研究をしていると聞かされる
そして、高校時代からの友人・樹里(常松祐里)の勧めもあって、マッチングアプリに登録することになった
雨音はそこで出会った朔(栁俊太郎)と夫婦となり、樹里の夫・水人(宮田健太郎)と恋人関係になる
そして朔は、深雪(杉浦りょう)と恋人関係になり、それぞれの人生は少しずつ進んでいくのである
映画は、近未来っぽい設定となっていて、雨音と朔は「実験都市エデン」へと居を移すことになった
そこは男性も妊娠をする研究が行われていて、そこで生まれた子どもたちは、そこにいる大人全員が親として接するという
子どもたちも彼らを親だと思って接してきて、雨音は戸惑いを見せるものの、朔は受け入れていく
そんな世界観は難しくはないものの、現実的とは感じられず、全く違う星に生きている人々を見ているような錯覚を覚えていく
少子化ゆえに起こったシステマチックな改革であると思うものの、人類のほとんどがその方向に向かっていけるのかは謎のように思える
物語は、母親と同じように生きようとする雨音が描かれていく
朔との夫婦関係の中で妊娠をするものの、樹里の事故の影響で流産してしまう
そこからは、朔が産んだ子どもの世話をすることになるのだが、不特定多数の子どもの精神的な親でもあり続けなければならない
言わば、この世界線における境界にいるのが雨音たちであり、二世たちは当たり前のように受け継いでいく
子どもは世界の宝であり、それを育てるのが親の役割となっているのだが、産み育てた子どもと同じように愛せるのかはわからない
そもそも、育てることに愛が必要なのかもわからず、精神的な支えとなれば良いという責任があった
ラストでは、そういった概念の世界で生まれた青年(岩田奏)が登場し、雨音の概念にふれるという結末になっていた
それがどのような世界線を生み出すのかはわからないが、反抗の芽は潰えることなく、静かに芽吹いていくのかな、と感じた
いずれにせよ、ほとんどが白の世界で展開し、それは無垢な無地に概念を植え付けるという意味合いがあるのだろう
その中で赤に塗れる雫と雨音は異質の存在であり、それが白に染まるのかどうかを見ていく映画だったのだと思う
ほとんどのキャラが同じような格好をしていて、画面がやたら暗いので、疲れ目には優しくない映画だったように思う
このような世界が訪れるのかはわからないが、ある種の思考実験としては面白いのかな、と感じた
