「カナリス提督のことを想い出す。」ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
カナリス提督のことを想い出す。
ヒトラーと戦った比類なき聖職者、ディートリッヒ・ボンヘッファーの一生を描く。
彼が、他の牧師と違っていたことの一つは、若い頃、米国に留学した経験があり、その時、ゴスペルに触れていること。その後も、ロンドンのドイツ人教会の牧師として赴任し、世界教会会議議長と知り合うなど、幅広い視野を持つ聖職者であるが、国際性があった。
神学者として高い評価を得る一方で、牧師として周囲の支持を得てゆく過程で、ヒトラーが首相に就任し、ユダヤ人の追放を打ち出す。ドイツのプロテスタントの多くがそれに追随したが、彼は同志と共に、別派の「告白教会」を結成する。
ここまで見た時、彼には、政府内、特に国防軍の高官に強い支持者がいたに違いないと思った。ラジオ放送でナチの批判をしても逮捕されなかったのだから。
しかし、彼は、そのさらに上を目指す。ナチの内部に入り込んででも、ヒトラー体制の転覆を図ったのだ。映画では、43年3月の暗殺未遂が描かれているが、より重要であったのは、44年7月20日「ワルキューレ」として別の映画でも描かれた暗殺計画の方だろう。ただし、彼はすでに43年4月、ユダヤ人の亡命を幇助した罪により逮捕されていた。したがって、彼は暗殺計画の当事者というよりは「黒いオーケストラ」と呼ばれる反ヒトラー・グループの精神的な支柱だったのだろう。しかし、この計画に関与したことにより、終戦間際に、国防軍情報部(通称アプヴェーア)におけるバックボーンであったと思われる(逢坂剛さんの小説によく出てくる)カナリス提督と共に、罪に問われる。映画では、時間軸を行ったり来たりしながら描かれるため、こうした筋道は、必ずしも明らかではなかった。
一つの疑問は、当時のドイツを舞台にしたドイツ人中心の物語なのに、全編英語であったこと。資本は、米国、ベルギー、アイルランド。何よりも、米国人に見てもらいたいと制作者たちが考えたのだろう。おそらく、彼が英国国教会のメンバーと交渉を進める間、何度もチャーチルの名前が出てきたことからも、昔も今も世界の情報と金融を握っている英国人はユダヤ人迫害について知りながら、何もできなかったことを後悔していたに違いない。それで、英国の実効支配していたパレスチナの地に、隣国のレバノンを支配していたフランスの同意もあって、イスラエルを建国できたのだろう。ただし、その地の住民たちを追い出す形で。そういえば、映画の途中で、ウクライナのことも出てきた。ただ、あのキーウの谷で行われたユダヤ人虐殺には、ウクライナ警察が関与していて、それがプーチンのウクライナ侵攻の口実の一つとなっているのだが。
