劇場公開日 2025年2月8日

「濃縮された時間・記憶」名前のノート おたけさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0濃縮された時間・記憶

2025年3月2日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

事前に作品背景など調べずに鑑賞。

まずはノートに消し直して描かれるために残る、ノートの痕跡に意識が向かう。
普通のコマ撮りは1シーン描いたら新しい紙を使い描き直すため必要な線以外は残らないが、消した跡からノートの同じ1ページに描かれたものだとわかる。
オオカミの家の壁絵を思い出す。

描かれたものが消され、また描かれて消され…この作品が作られるための行為自体が、「消された名前」「無かったことにされた名前」のイメージを生々しく伝える。

一人ひとりの名前が読み上げられるシーンでは、最愛の人の名前をそっと囁くように。

コマ撮りで動きをつくるために次々に目まぐるしく進む時間と、その一瞬にしか使われない1枚のノートに刻まれた線が、次々に進み、あれよあれよと過ぎ去っていく。
日々の生活で、目まぐるしく状況が進み続ける中、ふと意識を向けようとした時にはその出来事は、この作品の一瞬前のページのように消し進み痕跡しか残っていない。

忘却がなければ生きられないけれど、忘却されぬ者の存在を、頭ではなく身体で感じる物語だった。

短いけれど、短いゆえに、濃密な作品。
8分という時間は、∞への祈りを感じる。

sumu