「桐島です」のレビュー・感想・評価
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受け取る側にも「それなりの判断力」が求められる一作
1971年生まれの私にとって、指名手配犯或いはその写真ですぐに思い浮かぶ代表格「桐島聡」。昨年、突然の「桐島と名乗る人物」の身柄確保と間もなくの死去が報道され話題となった桐島聡を、巨匠・高橋伴明監督(兼脚本、プロデューサー)が描いたと聞いてサービスデイの本日、新宿武蔵野館にて鑑賞です。
本作は当時、大学生だった桐島(毎熊克哉)が同志たちと蜂起して起こすテロ事件をきっかけに、一部共犯者の逮捕と自らも指名手配されて追われる身となり逃走した「その後の桐島聡の人生」が描かれます。
その状況からも想像に難しくない桐島・逃走後の人生は、周囲から「そういう人いるよね」と言った感じの曖昧で抽象的な印象であり、特筆して目立つようなタイプではありません。普段は真面目に働き、余暇には程々の飲酒と好きな音楽を楽しんでいますが、不意に見かける警察の影に脅えたり、自らが犯した行為を見る悪夢にうなされて起きる朝など、安らぐことのない孤独な人生は「犯した罪への終わることのない代償」の日々。
そんな桐島が行きつけの酒場で、突如現れて舞台に上がる歌手キーナ(北香那)の弾き語りで披露される「あるヒット曲」に動揺しながらも心を震わせるシーン。この選曲と演出は本作最大の見せ場で大成功と感じる流石の巨匠・高橋伴明監督。とは言え、その後も再三にわたってヘビーローテーションするのは、ややその選曲の成功に頼りすぎな面も否めません。
また、桐島の「人となり」を示すためのエピソードの数々として。時に特別意識することもなく当たり前のように利他的な行動をとる桐島を見れば、その人間性についつい肩入れしたくなって大変に魅力的です。更に、周囲がこぼす「制度」や「社会システム」に対する不満に対し、国を相手取った「陰謀論」で対抗するところなどはユーモラスさを感じます。ただ一方で、世間知らずの若者による外国人(朝鮮人やクルド人)への差別的な発言に対するやや過剰な反応や、テレビから流れる当時の首相の「ある政策」に怒って取る行為など、若干ステレオタイプに感じていささか表層的。その人物像を語るには、いくらフィクションとは言え「実在する人物」が基になっているだけに肝心なリアリティが足りておらず、むしろ「こうであって欲しい」と背負わせすぎな印象も感じます。(※蛇足として…個人的には「最期の自供」や「うーやんというニックネーム」など、逃走後は「桐島ではなく内田洋」に成り切り、思想家とは遠くてもっと俗っぽい人生を送るように心がけていたのでは??なんて、ただの想像ですが。)
兎も角、高橋伴明監督ということで少々ハードルを上げすぎたのか、つまらなくはないけどちょっと物足りなさも感じた本作。主義主張のために一般人を巻き込む事件を起こし、罪を償うことを良しとせずに逃走した人物を「英雄視」こそしていませんが、指名手配犯・桐島を通して(或いは利用して)語るという「手段」には、受け取る側にもそれなりの判断力が求められると思います。本作、観終わってから「(本作冒頭の)事故を報じた映像」を思い出すことも重要。突然の大道寺あや子a.k.a.“謎の女AYA”(高橋惠子)登場に惑わされてはいけませんよ。
彼の生き様は海を超えたけど、いずれ再び、日本に戻ってくるのかもしれません
2025.7.9 イオンシネマ久御山
2025年の日本映画(105分、G)
実在の人物、東アジア反日武装戦線「さそり」のメンバー・桐島聡の逃亡生活を描いたヒューマンドラマ
監督は高橋伴明
脚本は梶原阿貴&高橋伴明
物語の舞台は、1970年代の東京
東アジア反日武装戦線のメンバー・桐島聡(毎熊克哉)は、ボスの黒川芳正(伊藤佳範)、同胞の宇賀神寿一(奥野瑛太)とともに、労働環境を改善しない企業に対して、爆破テロ行為を続けていた
世間を震撼させた三菱重工の爆破テロ事件以来、公安は目を光らせていたが、桐島たちはその目を掻い潜って、爆破事件を繰り返していた
ある日のこと、黒川が逮捕されたことをきっかけに逃亡生活に入った桐島と宇賀神は別行動をすることになった
安いアパートを借りて、日雇いなどで生計を立てていたが、桐島は東京を離れることに決めた
湘南の海辺の街に辿りついた桐島は、そこにあった小林工務店に転がり込む
この頃から内田洋と名乗るようになった桐島は、小林社長(山中聡)の信頼を得て、同僚の金田(テイ龍進)たちと佐官などの仕事を行なっていく
会社が借りているアパートで生活を始めることになった桐島は、奇妙な隣人(甲本雅裕)などに警戒をしながら、日々を積み重ねていくことになった
だが、爆破の悪夢を繰り返し見るようになり、穏やかな日は訪れようもなかったのである
映画は、2024年に桐島が病院で名乗ったことをきっかけにして、偽名を使いながら47年間も続けた逃亡生活がフォーカスされるようになっていた
本作はドキュメンタリーではなく、あくまでも架空の話になっていて、このような生活を送っていたのではないかというものを、様々な資料や証言などから構成している
だが、当時を知る人が「=桐島だった」と認識はしておらず、死亡のニュースが流れても、使われたのは20代の頃の写真だっただろう
なので、どこまでの人が「あの時の彼が桐島だったのか」と思ったのかはわからず、同胞だった宇賀神たちの持っているイメージというものが色濃く出ているように感じた
物語は、企業による労働搾取問題に抵抗する様子が描かれていて、それに対抗する手段が爆破テロだった、という時代になっている
学生運動が盛んな時期で、日本赤軍なども活動していた時期なのだが、今の若い世代はほとんど知らないと思う
私の世代でも、生まれた頃に起きた事件で、しかも関東圏のことだから身近に感じることはなかった
全国的に指名手配されているものの、取り立てて興味を持った覚えもなかった
今の時代も労働者の搾取問題は取り沙汰されるが、もっと巧妙で、当時以上に法律の目を潜り抜けているものが多い
現在進行形で様々な問題が報道されているのだが、映画の中の時点でもすでにクルド人の不法滞在問題なども登場しているので、2014年くらいからのパートに関しては聞き覚えのあることも増えてきていた
桐島は、安倍総理の演説にブチ切れたり、新入りのたけし(和田庵)の差別的な発言にキレることもあった
根底にある労働者の搾取構造に対して、どんな運動を行なっても変わらず、ますます悪化していることを肌で感じていたと思う
失われた30年の中で逃亡生活を続けていて、自分の近くに来る人たちも変化してきたと思うのだが、そう言った部分はあまりふれられていないように感じた
ラストでは、中東地域のどこかの武装勢力が描かれ、AYA(高橋惠子)の元にメッセージが届いていた
そのメッセージに字幕がついていないのはアレだが、アラビア語で「神の御加護がありますように。桐島聡氏は亡くなりました」と書かれていた
彼の思想や生き方が現代にも根付いていることを意味し、その行動は国内を飛び出しているということになるのだが、この状況を桐島が望んでいたのかは何とも言えない
それでも、色んな国が辿る道でもあり、未来の日本も転落して高度成長前まで戻ってしまうのなら、同じことが繰り返されるのかな、と感じた
いずれにせよ、かなり訴求する層が少ない映画で、劇中の桐島たちの思想に共感する若者もほとんどいないと思う
人に怪我をさせないと言っても、どこかの工場を爆破させたツケは現場の底辺に押し付けられるだけで、企業の体質が変わるということはない
社会構造が変わっても、企業はどんどん巧妙になっていくだけなので、そう言った時代の中でどう生きていくかというのは二極化していくのかもしれない
どのレイヤーで生きていくかを選ぶ時代になっていて、そう言った構造を根本から覆すよりは、構造の中に新しく自由な構造を作る以外にはない
その方法はたくさんあると思うが、とりあえずは世の中の仕組みを理解して、自分なりの角度で築き上げるしかないのかな、と思った
切なくやるせなく・・・いい映画だった。
共感
小学生の頃から見ていた「桐島聡」だし、学生運動への興味は以前からあったし、で鑑賞。
まさか高橋伴明監督作とは思ってなかったが、事前の予想に反してまさに今撮られるべき作品になっていた。
正直、全共闘世代ど真ん中の高橋伴明に物語られるのは若干モヤるものが無いではないが、それでもやはり現在の日本を射抜く作品になっているのは流石。
本作のテーマはまさに桐島に捧げられた「やさしさを組織せよ」ということば通りだった。
潜伏50年(ほぼ)ということで事実はほぼ不明ながら、同士であった宇賀神氏への聞き取りなどから、『「指名手配の爆弾犯」桐島』でなく、大日本帝国の先兵となってアジア諸国を搾取しながら責任を取ることのない日本企業や政府そのものへの責任を問うひとりの青年としての桐島聡を描いている。彼はきっと昨年初に亡くなる前には、在日朝鮮人への差別には「そんなわけないだろ」と言い、クルド人差別にはその境遇を理解しようとする、そんな人だったろうと描かれる。
そうだろうなと思う。彼らが武力闘争を選び爆弾テロを行ったことは間違っていたが、そもそもは「やさしさ」から始まっていることであり戦後誰も問わず取らなかった「責任」を問うているのだから。
序盤で桐島は「学生運動なんて時代遅れだし、上場企業に就職したいし」という理由で彼女に振られる。私が全共闘世代を許せないのはそこで、彼らは社会変化運動をファッションとして消費し「時代遅れ」と葬ったうえで転向して体制側に加わった。その後の社会変革運動はすべてそこに飲み込まれてしまい、その結果として今の日本がある。
現在の日本社会に蔓延るヘイトや差別は当時もあり、桐島たちがそれに抵抗していたにもかかわらずそれは今も温存され、再び猛威を振るっている。
我々は桐島の「ごめんなさい、こんな日本で」という贖罪に共感すべきだ。共に謝り共に未来に向かうべきだ。でなくては、彼らの爆破闘争は正しかったということになる。
高橋伴明監督のそういう想いは伝わったし、そこに本当に共感する…
一番観たかった所が描かれていなかった
2025年劇場鑑賞200本目。
エンドロール後映像無し。
指名手配犯が偽名で生活していて、死の間際に名乗り出たというニュースは知っていました。当時(と言っても最近ですが)最後まで名乗るべきじゃない、責任を取らずに気持ちだけ楽になろうとするなんて卑怯者だという意見が多かった記憶があります。ただ、この桐島という男が何をしたのかよく覚えていませんでした。
てっきり名前と顔をころころ変えて転々としていたのかと思っていたのですが、そうではなく、バレないもんだなと思いました。本人から聞いたわけではないでしょうし、日記をつけている描写もなかったので、潜伏中の彼の様子は当時関わっていた人たちの証言から描かれているはずなので、隣の男の話とか、恋の話とか、怒った話、同僚の話、どこまで本当か分かりません。それはいいのですが、本人が死の間際に告白してから、その後の周りの反応が一番見たかったのに、元同志の書いた記事しかなく拍子抜けでした。
先に逮捕された同志は獄死した例もありますが出てきており、一生偽って生き続けるなら早く捕まった方が楽なのではとこの映画を観るまでは思っていましたがそれなりに自由を満喫していたのでどっちが良かったのか・・・。
彼は自分の人生を生きられたのだろうか…
駅で見かける指名手配写真。
彼らの人生を考えたことは無かった。
なんだか過激な事件を起こしたヤバい人。
そんな冷たい視線を送っていました。
この映画を観るまでは。
1974年の三菱重工本社ビル爆破事件など、いわゆる過激派が起こした一連の犯罪で指名手配犯となった青年の半生を、正体を隠して生きた50年間の軌跡を描いています。
警察を見るたびに隠れ、いつでも逃走できるよう枕元に靴を置いているのも彼。
かつての仲間たちの逮捕に怯え、消息を伝える新聞記事を息を潜めて読み、実家と連絡をとることもできないのも彼。
同じ工務店で40年余りの年月を勤めあげ、同僚や地域の人々に親しまれる好人物もまた彼。
故なき差別に我を忘れて激高してしまうのも彼。
彼が生きたかった人生はこの中のどれだったのだろうか。
平和な世界を願い、不当な搾取に断固意見する。
食い物にされている弱者には手を差し伸べずにはいられない。
そんな優しい人がこのような生涯を送らざるを得なかった状況に忸怩たる思いを抱きました。
40年間住み続けた部屋の家具や所持品が、時を経るにつれて少しずつ現代風になってゆくのが妙に印象的でした。
勉強なんかするとろくなもんにならん
「勉強なんかするとろくなもんにならん」
昔はこんなことを言う人もいたそうですが、このろくなもんというのは世の中に不満があるが故に片寄った思想を持った過激派のことだと思いますが、結局エネルギーをマイナスの方向に使ってしまっている人だと思います。社会のこういうところが良くないから直さなければならないと思ったところで個人にできることなんか何もない。だったら社会のことは自分のことではないし、社会の欠点は自分の欠点ではないのだから自分は自分の幸せのために生きればいい。一個人が社会を変えることはできないが、自分自身や家族や身のまわりの人を幸せにすることならできる。
過激派の人はそういう諦観を持って生きることができない純粋な人なのではないだろうか。純粋で頭のよい人は勉強のし過ぎでバランス感覚を失い片寄った思想を持ち反社会的な過激な行動に出て一生を棒に振ってしまう危険をはらんでいるのではないだろうか。
残念。こんなストーリーは期待していなかった
桐島をみせたいんですよね?
連続企業爆破事件の被疑者として49年の逃亡生活の末、2024年ガンによって死ぬ直前に身分を明かした東アジア反日武装戦線の元メンバー桐島聡の話。
三菱重工爆破事件から始まり、宇賀神と同僚の桐島のもとに黒川がやって来て巻き起こっていくストーリー。
関与した事件の様子をみせ、その後警察に怯えながらも普通に暮らす様子をみせていくつくりで、過度な演出を入れていないといえばそうなのかもしれないが、桐島の心情を表す描写もあまり無し。
なんなら事件の行も、9.9の宇賀神との行も知らないでみたら良くわからないんじゃ?という粗い作りだし。
テロには参加したけれど、普通の人で慎ましく幸せに暮らしていましたとか言いたいんですかね?
晩年の描写でやっとこ変わらないズレた思想を見せたけど…。
これならば脚色がより強いけれど、今年3月に公開された「逃走」の方が断然面白かった。
計算した演技なんだか素なんだか境目が分からない
楽しみにしていた映画。
私としては、結構面白かった。
49年間に渡って逃亡を続けた桐島聡という人物とその思想を、物語の表面的には肯定的に描いているように見えて、実は人生の本質的な部分で、大きな疑問を投げ掛けているように私には思えました。
主役は毎熊克哉さん。
今回の映画でも、計算した演技なんだか素なんだか、いつもの境目が分からないような演技が良かったです。
毎熊さんの相手役に北香那さん。
何にでもなりきってしまう演技が好きです。今回の役はとてもキュートでした
ただし、毎熊さんに60歳を超えてからの演技を求めるのは、ちょっと無理があったのではないかな。
桐島のロードムービー?
もっともっと重い映画かと思ったが、桐島の闇深い50年の歴史をブルースギターをバックにある意味ロードムービー風に軽く描いていて、まあそれはそれで良かったけど…
まあ若い頃の桐島役の毎熊克哉は良かったが、晩年の桐島の演技が重みがなく役不足は否めない感じ
いっそ、それ相応の歳の別の役者にしたほうが良かった思うのは私だけだろうか?
まあ周りの個性ある役者たちに救われた映画であり、特にラストで存在感のある高橋惠子の演出は嫌いじゃないです(笑)
人間と悪魔【若気の至り】の狭間に
まあ 確かに50年近く
勝利した✖︎ 逃げ切った⭕️人生
河島英五の『時代遅れ』挿入歌 そのまんま です。内容はスクリーンで確認してね
誰かが指摘してるけども
職を転々 ではなくて 一つの工務店一筋
本作の良い点 人間 若気の至り 桐島氏を描いたこと。
本作の悪い点 爆・犯人には相違ないのだから 美化しすぎ。
つまり 普通の・人と異なり 爆・犯人は 返り血を浴びるわけでも 被害者の苦痛を見るわけでもない点において
凶悪犯、卑怯な犯罪であるものの筆頭 ドローンで・弾 落とすのとかわりはない
まあ 若気の至り 爆・事件に手を染めなければ
普通の温厚な人だった【かも】ということだろう。
とにかく50年という年月は尋常じゃない。
だから 個人的感想として 全てがこの描写どおりとは思わない。自首して欲しかった。
ただ 意外と 淡々とテンポよく進むのは 昭和から鳴らしてた 高橋伴明監督夫妻の力か
有料パンフ🈶は薄いけど カラフル
3つくらいのコラム除けば わかりやすい 読みやすい。まあ本作見る硬骨漢には要るカモな
まあ いずれにせよ テロというのは絶対OUT 起こしたら人生詰んでしまうことを再確認。
会社は 社会保険加入勧めなかったのかなぁ
そこそこ知的🧐作品。上映館少ないけど 観やすいことは観やすい一般作でした
俳優さんは 主役の毎熊さんも良いがというより 甲本雅裕さん 白川和子さん 奥野瑛太さん 影山祐子さんが良かった。
北香那さんは 確かに 昭和高度成長期、経済安定期の顔だよねぇ
毎熊克哉さん…桐島にそっくりで演技うまし。キーナちゃんより毎熊さん...
足立vs髙橋夫妻
部活を辞めた謎の人物が登場する作品ではない!笑。
さて、促成された「逃走」(足立正生監督)から遅れること4カ月。高橋伴明監督版の満を持した〈指名手配犯・桐島〉である。足立版はアヴァンギャルドな舞台演劇的な演出やアジテーションシーンがめだった。本作は、映画的な文法で粛々と『内田ヒロシ』として生き続ける桐島を描写していく。しかし映画後半の近年部分になると、安倍内閣の安保法制や、クルドや朝鮮半島へのヘイトといった、果たして桐島のエピソードにあったのか?という製作者の主張のような、興醒めしてしまう要素が目立つ。その点において、髙橋版は〈潔く無い〉と思う。最終シーンで髙橋惠子が大道寺あや子らしき役柄で桐島の冥福を祈る。まあ、そうなるよね。
弱い立場に寄り添う
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