劇場公開日 2025年9月12日

「「悪者」が出てこない良作の反面、非誠実性があるかも。」風のマジム ひぐまさんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 「悪者」が出てこない良作の反面、非誠実性があるかも。

2025年10月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

幸せ

癒される

 原作は原田マハの小説によるものだが元々は実話からインスパイアされたものらしい。最後までハラハラドキドキする箇所もなく、悪者や敵役も完全に不在とは言えないが目立たない。むろん最近の映画には必ずあるバトルもない。ゆえに「映画らしくない」と見る向きもあるだろう(特に若い幼い観客には)。唯一画角がスコープだったが、それすらも沖縄の自然にフォーカスしたものは少ない(この点は後述)。ほとんど唯一島豆腐の製法シーンでのみ表現されているようだ。

 時代設定とその描写にも苦慮したのかなと感じた。2025年現在、シュレッダーとお菓子補充を主業務にする契約社員がどれほどいるのかな?と感じてしまう(事実あるのなら失礼)。これは原作の発表が2010年であり、後に登場する東京の醸造プロューサー(演・眞島秀和)という仕事が恐らく時代の先端あたりを進むポジションであるがゆえ、沖縄と東京との間に依然として残されている「空気感の時差」を狙ったものであるのならば、まぁ納得できる。
 主演の伊波まじむはみんな大好き伊藤沙莉。小さな身体で作品のすべてを背負う。染谷将太が専門性の高い説明役になって物語を押し進める。他の出演陣に一部芝居がしんどいかなと感じる人もいたのだが、作品全体の印象からすると気にならない。ただひとり惜しかったのが滝藤賢一演じる瀬那覇仁裕。物語全般の最後のキーを回す役目なのにいまいち演出面でも作劇面でも薄い。もうひとつふたつエピソードをぶち込むべきではなかっただろうか。演じた方が悪いと言っているわけではない。
 先日の「宝島」では理解に苦しんだ沖縄方言=うちなーぐちはこの作品でもけっこうキツい。しかし…なんとなくわかるんだよね。作品カラーが異なるから当たり前と言われればそうかも知れないが。

 全体の印象は星3.5。誰からも好かれる要素を持った作品だとは思う。公開館数は少ないながら、今後はサブスクでも見られるだろう。お勧めしたい。なお採点には以下の内容は加味していない。

<気になった点>
 メインの舞台は沖縄本島。サブの舞台である「南大東島で本当にロケをやったのかな?」ということ。エンドロールを見ると村か観光協会が協力はしていたようだが詳細までは調べていない。自分自身は昨年の2月に1日だけ本当に南大東島を訪れている。特に中心部である在所の記憶は鮮明だ。2013年の「旅立ちの島唄〜十五の春〜」(監督:吉田康弘、主演:三吉彩花)という秀作を見たことが影響してのことゆえ、あのつき抜けるような空と海、風に揺らめくサトウキビ畑といった自然そのものの島をスクリーンで見るのを楽しみとしていた。が、ぶっちゃけサトウキビ畑、製糖工場、大東そば屋、村役場だけで終わってしまう。うち、製糖工場は「あの文言」が書かれていなかったがゆえ違うんでね?であり、村役場は明確に実物とは異なっていた。サトウキビ畑は沖縄県内ならちょっと田舎に行けばどこでもある光景。そば屋はなんならセットでも撮れる。他にも沖縄映画なのに沖縄らしい自然の描写が少なかった。そこは内地の人間としてちょっと残念。蛇足だが実際に南大東空港から在所までならどうにかこうにか歩いて行ける距離ではあるけれど、歩く人などいないw。曲がる交差点を一か所間違えなければいいだけだ。ただし起伏は大きい。
 モノホンの南大東島でのロケは大変ゆえ、本島内で済ませても仕方がないと思うが、真相をご存知の方がいらしたら教えてほしい。

ひぐまさん
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