「実話ベースのフィクションだが、ビジネスに大切なものが散りばめられていた」風のマジム Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
実話ベースのフィクションだが、ビジネスに大切なものが散りばめられていた
2025.8.18 MOVIX京都
2025年の日本映画(105分、G)
原作は原田マハの同名小説
派遣社員から社内ベンチャーの責任者になった女性を描いたお仕事系ヒューマンドラマ
監督は芳賀薫
脚本は黒川麻衣
タイトルの「マジム」は主人公の名前で「真心」という意味
物語は、沖縄県那覇市にある豆腐店の娘・まじむ(伊藤沙莉)が、ある島のサトウキビ畑のそばを歩いている様子が描かれて始まる
まじむは祖母・カマル(高畑淳子)の豆腐店を手伝いながら、母・サヨ子(富田靖子)と3人で暮らしてきた
彼女は琉球アイコムという会社に派遣で入っていて、仕事内容は雑務ばかりで、正社員の仕事の手伝いもさせてもらえなかった
ある日のこと、社内ベンチャーコンテストの存在を知ったまじむは、それに興味を示す
行きつけのバーでバーテンの後藤田吾郎(染谷将太)とその話題になるまじむは、そこでサトウキビを使ったラム酒というものを教えてもらう
通常は砂糖を作る際に残ったものを使うのがラム酒だが、そのアクリコールラムはサトウキビそのもの汁を使うとあって、その風味は他のラム酒とは比べ物にならないものだった
まじむは「沖縄県産のサトウキビ」を使ったラム酒製造を思いつき、それをコンテストに応募してしまう
当初は斬新だったその企画は選考会を残り、まじむは新規事業開発部に配属されることになったのである
映画は、金城祐子さんをモデルにした小説の実写化で、エピソードの多く、制作に至る過程を再現している
彼女はグレイスという会社を立ち上げることになり、「コルコル・アグリコール」という国産無添加のラム酒を製造するに至っていて、映画公開に際して「風のマジムラベル」のラム酒を限定で発売したりもしている
このタイトルの出し方も面白くて、命名には感動的なエピソードが存在する
映画内では、こだわりの強い醸造家・瀬那覇(滝藤賢一)が登場するのだが、彼が妻と電話で交わす会話もベタだが感動を寄せるものとなっていた
映画内にて、祖母カマルは「まじむには人を引き寄せる不思議な力がある」というのだが、それは彼女の純粋な動機と熱量によるもので、先輩社員の糸数(シシド・カフカ)はかわいそうなくらいに対比的な存在として描かれている
部長の儀間(尚玄)も「ビジネスとして考える必要がある」と彼女を評価する一方で、役員会は奇抜なまじむのプレゼンを満場一致で推すことになる
それは、前向きな姿勢が評価されたことと、ものづくりにおいて欠かせない「生産者の顔が見えること」というものが評価されたからだろう
ビジネスライクな企画であったとしても、最終的に利益を生み出すのは人であり、その最初の顧客は社内の人だったりする
損得を最初から計算して、その通りになることなどほとんどないもので、糸数のプランでブランドラム酒を販売しても、ある程度の成功は収めただろう
だが、結局はラベルだけ沖縄みたいなラム酒になってしまい、もし後発で「本物」が出てきたら駆逐されると思う
そう言った意味において、本物を提供しようと考えた経営陣の経営判断というのも評価されるべきことなのかな、と感じた
いずれにせよ、ベッタベタなお仕事系映画で、過疎地の未来問題にも言及している
確かに製糖産業にて島は「回っている」のだが、実際にはその産業に夢を持てない人は多い
その産業を我が事と考えられるかは別問題であり、機械で精製させて県外に送られる商品に愛着を持てるのかはわからない
元々はその製糖工場も地場的な発展を遂げてきたと思うが、その管理をするだけで若者が希望を持てるのかは何とも言えないだろう
そう言った意味において、リアルタイムに自分が地元に貢献できているという感覚を生み出し続けることが、地域経済にとって、最も大事なことなのかな、と感じた
